駅でひと目惚れ、スピード結婚したはずが…40歳夫が「おかしくなった」始まりは妻の複雑な父娘関係

  • ブックマーク

即プロポーズ

 単純な男だと思ってるでしょうと彼は言った。でも恋はそういうものだからとも続けた。その週末に会ったとき、彼はプロポーズしたそうだ。彼女は戸惑いを見せた。「まだお互いによく知り合ってないのに」という言葉に、彼は「僕の気持ちは変わらない。結婚してから知り合えばいいよ」と説得した。

「あのときの自分のエネルギーが信じられないくらいすごかった。彼女の年齢も経歴も知らなかった。“結婚”が何を意味するのかもわからなかったけど、自分は誠実にあなたと向き合いますという意志表明だったような気がします」

 彼女はそこに彼の誠意を見てくれたのだろう。つきあい始めてから3ヶ月で一緒に住むようになり、その半年後に婚姻届を出した。彼が28歳、彼女が31歳のときだった。

「美緒が実家に挨拶に行きたいと言ってくれましたが、僕は実家に思い入れがあまりないことを話し、いずれ機会があればということにしました。美緒の実家には行きましたよ。彼女はひとり暮らしをしていましたが、実際には僕と違って、実家への思い入れは大きかったと思う。少し複雑な家庭だったので、よけいに……」

「新しいお母さん」がやってきた美緒さんの幼少時

 美緒さんの両親は彼女が8歳のころに離婚し、彼女は父の元に残った。父は彼女を溺愛したという。ところが中学校に入るころ突然、「新しいお母さん」がやってきた。

「当時、父親は42歳、再婚相手は26歳だったそうです。夫婦の年齢差より、継母と美緒のほうが年齢が近かった。この再婚相手に、美緒は相当、嫉妬心を燃やしたらしい。お父さんが大好きで、お父さんも自分を絶対的存在だと思っているはずなのに、『あんな女にお父さんを盗られた』と。その思いは僕と結婚するころも引きずっていたようです。彼女は気づいていなかったけど、かなりのファザコンなんだなと思うところはありました」

 中学時代、美緒さんは荒れたそうだ。だが父親は逃げなかった。自分が結婚したことが娘を傷つけたことに対して、「家族といえども、人生はそれぞれだ」ということを諄々と説いた。そのうち美緒さんは、父と娘の関係は変わらないことに少しずつ納得していった。

「そうこうしている間に、年の離れた妹と弟が次々生まれた。でも父親は美緒をないがしろにすることはなかった。『私も思春期で複雑な気持ちだったけど、純粋に赤ちゃんはかわいかった。妹は私があやすとすぐ泣き止む。そうなると愛しくて』と美緒は言っていました。結婚するとき、美緒の実家に挨拶に行ったんですが、継母はかなり美緒に気を遣っているという感じでしたね。父親は会社を経営していて経済的には裕福そうでした。美緒は高校を卒業してから留学しているんですが、それも自分が実家にいないほうがいいだろうと思ったから。そのころの彼女の気持ち、継母の気持ちを考えると胸が痛みます」

義父とふたりの酒席で

 義父は鷹揚で実直なタイプだった。美緒さんはふだんは堂々としたキャリア女性に見えるのだが、実家では甘えん坊の「娘」で、それも翔一郎さんには意外だった。だが美緒さんの生育歴を考えれば納得できるものだった。

「後日、義父に誘われて、美緒には内緒でふたりきりで飲んだことがあるんです。自分が再婚したことで美緒は傷ついたと思う、大事にしてやってくれと頭を下げられました。美緒は、そんなお義父さんの気持ちをわかっていると思いますと言ったら、義父は涙目になっていました。いいお義父さんだと改めて感じましたね」

 ところが、そんな「いいお義父さん」に事件が起こる。

 ***

 “運命の人”の複雑な過去が明らかになりつつも、幸せな結婚生活をスタートさせた翔一郎さん。そこに暗い影を落とすことになる「お義父さん」の事件とは。【記事後編】で詳しく紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。