駅でひと目惚れ、スピード結婚したはずが…40歳夫が「おかしくなった」始まりは妻の複雑な父娘関係
偶然出会った女性にひと目ぼれ
大学を卒業して都内で中堅企業に就職、実家に顔を見せることもほとんどなかった。家族への憧れをもつこともなかった彼が結婚したのは28歳のときだ。
「どうしても一緒になりたい女性がいたから。それが美緒です。恋愛は人並みにしてきたつもりだったけど、27歳で出会った美緒に一目惚れして人生観が変わってしまった。僕はこの人に巡り会うために生まれたんだと」
美緒さんとの出会いは偶然だった。出勤途中の駅のホームで外国人に道を尋ねられ、返事に窮している翔一郎さんを、通りかかった美緒さんが助けてくれたのだ。ペラペラときれいな英語を話し、その外国人とひとしきり会話が盛り上がったあと、彼女は彼を見て微笑みながら去ろうとした。
「ちょっと待ってと思わず言ってしまいました。ここで別れたらもう2度と会えないだろうと思って。あわてて名刺に携帯番号を書いて渡して『ありがとう。もう一度会いたい。連絡をもらえませんか』と言いました。彼女は名刺を見て、『私の勤務先のすぐ近くだわ』って。じゃあ、今日、ランチでもと畳みかけました。どうしても彼女と話してみたかったんです」
美緒さんとのランチ
ふだんはこんなふうに押しの強い人間ではないんですと彼はつけ加えたという。その言葉に彼女は笑みを浮かべて、ランチをOKしてくれた。彼はときどき行く近くのカフェを指定した。彼女は「その店、知ってます」と言った。
「その日の午前中は仕事にならなかった。心拍数は上がりっぱなしで、凡ミスをいくつかして怒られて。昼前には会社を飛び出してカフェに行きました。彼女は時間きっかりに現れたんですが、周りの景色は見えなかった。彼女の姿だけが目に飛び込んできた。そういうことってあるんだな、あのときすでに恋に落ちていたんだなとあとから感じました」
何を話せばいいのか、どうしたら興味をもってもらえるか。さんざん考えていたのに、彼女を目にするとなにも考えられなくなった。相対して席に座ると、なぜか普段よりずっと落ち着いた気持ちになり、何を話そうかと考える必要もなくなった。
「ふたりの間の空気がとても穏やかで、顔を見ているだけで幸せな気持ちになったんです。いつもより僕自身も優しい言葉を使ったような気がする。彼女には人をそうさせるものが備わっているようでした」
何を話したかは記憶にないが、また会いたいと強烈に思った。会社に帰りたくないと彼は思わずつぶやき、彼女は明るい声で笑った。
「じゃあ、また会いましょと言ってくれたんですよ。その日から僕の人生はバラ色になりました」
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