市役所で“ひとりの職員”による苛烈なパワハラが放置され続けた事情…「もはや放置ではなく“隠ぺい”ではないでしょうか」

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 大阪府の交野市役所で、長年にわたり続いていたパワハラ・暴行事案。昨年7月、内部通報が行われたにもかかわらず、市は1年以上も放置していた……。

 後編では、市関係者や周辺からの聞き取りで判明した、これまでパワハラが表沙汰にならなかった構造的な背景と、市の「責任逃れ」の体質を記す。(前後編の後編)

見て見ぬふりをする周囲

 内部にこれほど多くの被害者や目撃者がいるなか、交野市役所におけるパワハラ・暴行案件は、一度も表沙汰になったことがなかった。そればかりか、現場の職員同士でも問題視されず、加害者が処分されたことすらない。なぜなのか。

 ある被害者はこう話す。

「自分が暴言を吐かれた際にも、横に目撃者がいました。なんで誰も止めてくれなかったんだと思いますが、職員らは“触らぬ神に祟りなし”という状態。『被害に遭ったのが自分じゃなくて良かった』というのが本音でしょう」

 加害者であるXに反論しようとすると、近くにいた上司が『やめとけ、もうしゃべるな』と言わんばかりに、しかめっ面で目配せをしながら机の下で足を小突くなど、あろうことか被害者を制止した事例も。

 今回、話を聞いていて痛感したのは、通報することで、Xや市長を含む上層部から報復を受けるのではないかと被害者や目撃者がいかに恐れていたかということだ。

「Xは、被害者たちの家に直接押しかけて行っているんです。それも何度も。怖くて気持ち悪くて。家族ごと実家に避難していたケースもあり、家族が怖がっている。そうするとやはり告発はできません」

 公益通報者保護法では、公益通報を理由とする不利益な取り扱いを法律で禁止している。しかし、詳しく話を聞いてみると、市のガバナンスは崩壊しきっており、上層部が全く信頼されていない。そのため、被害者は不利益を受けないという前提であっても報復を恐れて話ができないとする人、「身バレをするから」と、内情を話しても「報道はNG」とする人、さらには世間に訴えたくても「家族や同僚を守らないといけないから」と諦めざるを得ないとする人たちが少なくなかった。

 その落胆の雰囲気は現場に深く浸潤しており、市の通報相談窓口の担当者ですら諦めてしまっている。ある市関係者はこう話す。

「上席であるにもかかわらず、その人自身、頭を叩かれてもヘラヘラ笑っていたり、Xに擦り寄ったりしている光景もあった」

 2024年7月にある職員によって内部通報されたあと、被害者の一人は録音証拠があることも申し出て、通報相談窓口である人事課の担当者2人に相談している。しかし、返ってきたのはこんな反応だった。

「加害者Xはすでに隠蔽工作に動いているだろうし、市当局は何も対応しないだろう。この組織の頂点にアレ(加害者X)がいるような状態。この組織は、もはや外部から圧力をかけないと浄化作用が機能しなくなっている」

 結局、この被害者は証拠を添えた内部通報を断念した。

声を上げにくい「地方公務員」

 もうひとつ、今回の長年に及ぶ複数のパワハラ・暴行が表沙汰にならなかったのには、公務員独特の風土が関係していると、ある関係者は話す。

「おかしいことを、おかしいと言わない・言えない組織風土がある。公務員は評価が基本的にマイナス査定ですからね。功績を残しても何も評価されないのに、失敗したときだけ責任を取らされる。結局、『仕事ができる人=失敗しない、何もしていない人』なんです」

「特に交野市役所のなかには、波風を立てないのが美徳といった昭和の体質が強く残っていて、問題を不可視化するほど評価される。だからハラスメントに遭っている隣の同僚に対しても『自分じゃなくてよかった』となる」

「チャレンジしないと大きな成功もないが、失敗もない。ルーティンワークだけきっちりこなして、ヤバいと思えば人に押し付け自分の成績を上げる。そんな方法で好成績を上げてきたのは、他でもないXです。ボーナス査定が厳しい公務員ですが、Xは毎度、最高評価のS評価。他の職員よりも年間で15万円前後ほど高いはず。…トラブルメーカーなのに」

 こうした「マイナス査定」の悪しき風習は、褒められるものではないものの、他の公務員たちからもよく聞く話ではある。しかし、こと地方公務員においては、不祥事が外に出ないもう1つの大きな要因がある。

「地方公務員の場合、地元採用者の多い職場なので、転職しても自宅から役所が近いまま。狭い地域のため、役所の人間に会わずに生活するのは不可能です。それゆえ加害者による嫌がらせからも、公務員同士の繋がりからも逃れられないという不安や恐怖がある。そのため、一般企業よりも告発をためらいやすい環境があるんだと思います」

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