市役所で“ひとりの職員”による苛烈なパワハラが放置され続けた事情…「もはや放置ではなく“隠ぺい”ではないでしょうか」

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市の隠蔽体質

 上述の通り、被害者らは今月下旬、こうした状況を三号通報としてメディアに訴える準備をする。

 しかし、この動きを察知した市は、1年以上放置していた本件に対して、突然内部通報者を呼び出し、「以前から頼んでいた証拠は集まりましたか?」と聞いてきたという。

「通報者はこれに対し、『そちらでお願いしますと言ったはずです』と回答しました。内部通報者は録音データ等の証拠は持っていません。通報当初から人事課担当者にも、はっきりそう伝えています」

 さらに同日、市長が直接各被害者を呼び出しヒアリング。その際も、「通報者に対しては客観的な証拠を示してほしいと言ったが、こちら(市)で調べるようにと言われて出してくれなかった。証拠が示されていないので人事課は動けなかった」と主張していたという。

 1年放置していながら突然動き出すその市の態勢は、保身以外の何ものでもない。

 看過できないのは、この内部通報が放置されていた1年の間にも、Xによるパワハラは行われ続けていた点だ。もし1年前に動いていれば、防げた被害があることになる。

「今回の件において、市が動かかなかったことをみんな『放置』と言いますが、私個人として、これはもはや『隠蔽』と捉えています」

 関係者への取材を通して強く感じるのは、「市の怠慢」だ。

 筆者はこの件に関し、市側に取材を申し込んだところ「報道機関に所属していないフリーライターである」という理由から回答は拒否された。掲載媒体を記載のうえ再度申し込んだが、すぐに再度拒否された。

 市長が開いた10月28日の市役所での記者会見にも足を運んだが、「記者クラブに所属していない」という理由で会場への入場を拒否されている。

会見後の加害者X

 加害者Xは、被害者たちや市長による記者会見後、どういう様子なのだろうか。

「いつもと変わらない様子で出勤していました。何も気にしていない様子。さすがにそれ以後、パワハラが起きたという話は聞きませんが」(市関係者)

 ただ、Xの環境は大きく変化している。その1つが「異動」だ。

「12月1日付で環境部へ異動になりました。これは内部通報の対応の一環で処罰異動ではありません」(同関係者)

 しかし、この異動には問題がある。

 異動先の施設は、現在、職員の配置が一切ない場所。職員の配置を廃止した際、電話やインフラネットといった通信設備を撤去しているうえ、本庁や環境部庁舎から離れた場所に位置しているにもかかわらず、公用車がないのだ。

「市は、し尿処理場への異動に幽閉的な意味合いを持たせたのでは。衆人環視がない環境なので、誰の目を気にすることもなく野放しになるという懸念もあります」(同)

 しかし、それよりも心配なことがある。

「当該部署には、今回の通報以外にもXによるパワハラ被害者がかなりの数いるんです。日頃は顔を合わせない状況だとしても加害者が打ち合わせ等で被害者がいる場所へ来て顔を合わせる可能性もあることから、最適解としては在宅勤務命令を出し、定期的な連絡報告により監督下に置くことが理想なのでは」

 Xからパワハラの被害を受けた職員は、実際は今判明している以上に存在していると思われる。パワハラの事実を知っておきながら、1年以上放置した市の対応。上層部が変わらなければ彼らの労働環境が改善されることは決してない。

 今後第三者委員会を立ち上げて調査される。上層部に厳正な処分が下り、職員が市民のために円滑に働ける労働環境を取り戻せる日は来るのだろうか。

【前編は「『誰に言ってんねん、コラー!』…“星のまち”を揺るがす壮絶パワハラ問題 内部通報はなぜ1年以上も放置されたか」衝撃的なパワハラの中身】

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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