「誰に言ってんねん、コラー!」…“星のまち”を揺るがす壮絶パワハラ問題 内部通報はなぜ1年以上も放置されたか

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退職に追いやられた職員 問題にしない上司たち

 今回内部通報された案件のなかにも1件、暴行事件が含まれている。

 被害者はある市民スポーツ団体事務局の課長だったC。Xは当時、その団体の理事だった。報告がないからとXが裏拳でCの顎あたりを殴り、頸椎を捻挫させた。

 その前にも腹を蹴り上げられたことがあったCは、これらの状況を懇意にしていた副市長や企画系部署の部長に相談したが、その際彼らは「個人間のトラブルだ」として相手にしなかったという。結果Cは、2023年10月に鬱を患い病気休職。翌年3月に退職するに至った。

 当該暴行事件には目撃者が2人いた。

 被害者Cが病休に入る時、Cの上司である部長が当該暴力事件の目撃者のうちの1人だったDに聞き取り、報告書をまとめた。その報告書を最終的にDに確認させ、署名と捺印を求めたのだが、この職員Dはそれを拒んだのだ。

 このDは、過去に別のパワハラ現場にも遭遇していたが、その際も「いや、別にパワハラのような風には私は受け取らなかった」、「ハラスメントに抵触するような気はしない」と証言したことなどにより、被害を過大に訴えたものでハラスメントではなかったとされ、流されてしまった経緯がある。

 結果、当該暴行事件もDの署名捺印がなかったからと判断したのか、その部長は報告書を出さなかった。そのため、暴力事件の報告書は上に上がらなかった。

 もう1人の目撃者に対しては、ある職員Eが後日、何があったのか問い詰めたという。

「この目撃者は役職でいうと次長級の人物。そんな人が『いや違うねん。それな、XをCが怒らしよったからあかんねん、あいつがXを怒らしたから怒られよったんや』と。人事課やコンプラ担当に報告を入れた方がよいと促したが、『いやいやどうやろな』と苦笑いしていました」

 職員Eは、続けて目の前のコンプラ違反を無視するのか問い詰めたところ、こう返ってきたという。

「『いや、暴力って言っていいのか、まあ、暴力といえば暴力やな、これは……自分には暴力という認識がなかった。よく見えていなかった。あれはどついたになるのかな。頭つかみに行ったように見えた』と。その後、Xが職場でEのことを『あいつ俺のことを嗅ぎ回ってるらしいな。絶対許さんからな』と、大声で怒鳴り散らしていたようです。つまり、その問い詰められた次長はXに告げ口までしていたことになります」

 後編では、長年続いたパワハラがなぜ表沙汰にならなかったのか、そして1年放置した市の言い分を紹介する。

【後編は「市役所で“ひとりの職員”による苛烈なパワハラが放置され続けた事情…『もはや放置ではなく“隠ぺい”ではないでしょうか』」なぜ、問題は放置され、誰も声を上げようとしなかったのか?】

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA)

デイリー新潮編集部

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