なぜ松村沙友理の「おめでた婚」は祝福されたのか 「ぶりっこ」と沈黙戦略が生んだ最強の結婚報告
元乃木坂46・松村沙友理が、12月7日放送の「サンデージャポン」(TBS系)に生出演し、自らの結婚を報告した。過去の「アイドルによるおめでた婚」は否定的に捉えられることも多かったが、松村の報告に対しては肯定的な声が多い。その理由をライターの冨士海ネコ氏が分析する。
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「おめでた婚」はかつては「できちゃった婚」とも言われ、長年にわたり女性タレントのキャリアを破壊してきた。とりわけアイドル出身者にとって、それは「即・信用失墜」を意味する禁忌だったのではないか。特に清純派や「ぶりっこ」ポジションのアイドルほど、ファン離れを招くご法度である。だが今回、元乃木坂46・松村沙友理さんの妊娠・結婚発表を巡って、かつてのような糾弾ムードはほとんど見られない。「おめでとう」「幸せそうでよかった」「ちゃんと大人になった」……こうした好意的な反応が、批判を大きく上回ったのだ。
松村さんといえば、もともと「スキャンダル耐性が高い」タイプではなかった。現役時代の不倫報道、卒業後の人気YouTuber・ヒカルさんとの交際報道。いずれも世間からは「男運が悪い」「ダメンズ好き」と、半ば固定されたイメージで語られてきたタレントの一人だったといえる。恋愛スキャンダルによって「ぶっちゃけキャラ」や「恋愛体質」にかじを切る女性アイドルは少なくないが、松村さんは「さゆりんご」を自称し「ぶりっこ」キャラを貫いた。だから今回の妊娠発表も、少し前までなら「だから言わんこっちゃない」と冷笑されても不思議ではなかったはずなのだ。
ところが実際に広がった空気は、明らかに違ったのである。この異例の着地は、「ぶりっこ」を降りなかった、松村さんの異色の生存戦略によるものではないだろうか。
バイト企画とリアクション芸での信用の積み重ね 「ぶりっこ」芸を「賢さ」に転化
最大の理由として指摘されているのが、バラエティー番組「坂上&指原のつぶれない店」(TBS系)でのアルバイト企画である。松村さんは長年の「ぶりっこ」イメージを背負ったまま、現場の指示理解、実務処理、対人距離の取り方、トラブル時の対応までを極めて的確にこなしてみせた。そこにあったのは「可愛いだけの元アイドル」ではなく、「仕事ができる30代の女性」というリアルな姿だった。この瞬間、視聴者の中で長年残っていた「さゆりんご」像は、大きく上書きされた。「恋愛体質で危うい元アイドル」から、「多少失敗もしてきたが、現実社会でちゃんと働いている大人」へ。そうしたイメージの積み重ねの後、伝えられた妊娠報告が「無責任」ではなく「人生の次の段階」と受け止められたのは、決して偶然でも時代のせいでもない、当然の結果ではないだろうか。
さらに、「絶対にむせるラーメン」を食べる企画(「千鳥かまいたちゴールデンアワー」〈日本テレビ系〉)では、ぶりっこ芸をしながら登場し、勢いよく麵をすすって口から飛び出す場面も。こうした体を張ったリアクション芸も、「仕事ができる」証しだと視聴者から絶賛されていた。
「ぶりっこなのに」仕事ができる、ではなく、「仕事ができるから」ぶりっこも成立させられる。松村さんのぶりっこ芸は、単なる男ウケや処世術を超えて、「賢さ」「有能さ」の証左として転化することに成功したのだ。視聴者にとって「守られるべき危うい存在」から「自分で人生を回せる存在」へと認識が変わっていったのである。
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