大ヒット作「代紋TAKE2」の漫画家が明かす“デジタル化で激変”した制作現場 …「SNS投稿を見出されてデビュー」「作画の技術はYouTubeで学ぶ」ケースも
コロナ禍以降、漫画の制作現場ではデジタル化が急速に進んだという。「代紋TAKE2」などのヒットをもち、現在は「ゴールデン・ガイ」を連載中の漫画家・渡辺潤氏は、ペン入れ(清書)までをアナログで、その先の仕上げはデジタルで行う“ハイブリッド形式”で原稿を完成させている。一方で、デジタル全盛の時代ゆえの苦労も少なくないようだ。渡辺氏に漫画制作の最新事情を訊ねた。【取材・文=山内貴範】(全2回のうち第2回)
【画像】「デガウザー」「ゴールデン・ガイ」「代紋 TAKE2」…迫力ある筆致が伝わる渡辺潤氏の貴重な生原稿
アシスタントをやりたい人がいない
――従来の出版社以外に、IT系など様々な企業が漫画の事業化を進めています。その影響で漫画家のニーズが高まっているぶん、アシスタント不足に陥っているという声も聞かれます。
渡辺:実は、5~6年くらい前、ある編集さんが「アシスタントをやりたい人がいない」と嘆いていました。なので、前からアシスタント不足の兆候はあったと思いますし、アシスタントをする人の考え方も変わってきたと思うんですよ。
今までのアシスタントは、編集部に持ち込みをしてデビューを目指していたり、担当編集者経由で新人作家を紹介してもらうことが多かったのです。アシスタントはデビュー前の若手や新人にとって、修行の一環でもありました。
彼らは本気で漫画の世界に入ってきて、いつかデビューするために勉強したいと思い、アシスタントをしていたのです。そういったモチベーションがある人が減っているというのは、感覚的ではありますが、強く感じていることです。
――漫画家のもとで学ぼうと思う人が減っているのですね。
渡辺:それに、今はSNSに漫画を投稿していたところをスカウトされ、下積みやアシスタントを経験せずにいきなりデビューする人が増えました。そういった影響もあると思います。
――なかでもアナログ原稿を扱えるアシスタントが少ないのは、専門学校などでも今やデジタルが主体であり、トーンの貼り方などをそもそも教えていないことがあるようです。
渡辺:アナログ作家とデジタル作家の割合は既に大差がついているので、作家側も、デジタルに対応したアシスタントを求めている人が多いわけです。漫画の専門学校に行っていた人がアシスタントにいますが、デジタルの勉強のほうが即戦力になると学校で教わっていたと言っていました。
――確かに、圧倒的多数の漫画家がデジタルになっている以上、わざわざアナログを学ぶ必要がないというのも理解できます。
渡辺:デジタルのソフトのなかに、トーンや集中線などの素材がすべて入っています。アナログの時代は、“グラデーションのフラッシュ”のような特殊な効果ができるまでは、1年くらいひたすら練習する必要がありました。ところが、デジタルなら教わりながらソフトを触れば、たった数時間でできるようになってしまうと思います。
そういう意味では、最初からデジタルで漫画を描いていれば、漫画家のもとにアシスタントに行って勉強しなくても、YouTubeを視聴して自分で技術を学べてしまいます。だからアシスタントをしようと思わないのかもしれませんよね。
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