北海道や九州在住のアシスタントがリモートで作業…「代紋TAKE2」の漫画家・渡辺潤さんが語る「それでもペン入れだけはデジタル化しない」理由

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 近年、漫画のアナログ原稿に芸術的な価値が認められつつあり、各地の美術館やデパートなどで漫画家の原画展が開催されている。その一方で、漫画の制作現場ではデジタル化が進んでいる。一説によると、すべての工程をアナログで行っている漫画家はほとんどおらず、約98%もの漫画家がデジタルで原稿を制作しているといわれている。

 そのため、今なおアナログで原稿を描いている漫画家は苦労が絶えないという。網点や模様などを表現するために使うスクリーントーンが廃番になっていたり、パソコンでしか漫画を描いたことがない若手漫画家も増えたりしていて、アナログの作業ができるアシスタントの確保が困難な状況にあるといわれる。

「代紋TAKE2」などのヒットをもち、現在は「ゴールデン・ガイ」を連載中の漫画家・渡辺潤氏は、ペン入れ(清書)までをアナログで、その先の仕上げはデジタルで行う“ハイブリッド形式”で原稿を完成させている。こうした手法に至ったのは、コロナ禍の影響が大きいという。【文・取材=山内貴範】(全2回のうち第1回)

コロナ禍で完全にリモートに

――渡辺先生が、原稿制作にデジタルを取り入れたのはいつ頃なのでしょうか。

渡辺:WEBコミックのサイト「コミックDAYS」で「デガウザー」という漫画の連載を始めた2018年頃ですね。当時はまだ、僕の仕事場にアシスタントが大勢集まって作業をしていたのですが、そのなかにデジタルが扱える人がいたのです。WEBコミックだし、ということで、試行錯誤しながらデジタルを作業の一部に導入した感じです。

 次の連載「ゴールデン・ガイ」を進めようとした矢先、2020年からコロナ禍が始まり、アシスタントが仕事場に来るのが難しくなりました。編集さんには連載開始時期を遅らせるなどの相談をしていたのですが、いつまで経ってもコロナ禍が開ける気配はありませんでした。そこで、アシスタントにはリモートで仕事をしてもらう形で、連載を始めました。

 また、それまではデジタルを取り入れたといっても、背景などの一部はアナログで描いているアシスタントもいました。これを機に、背景、トーン、ベタなどの仕上げをすべてデジタルに切り替えたのです。今ではリモートもすっかり定着しました。僕がアナログで仕上げた線画をスキャンしてデータ化し、アシスタントに送って作業してもらっています。

――渡辺先生のように、コロナ禍を機に仕事の仕方を改めた漫画家は多いと聞きます。

渡辺:今だから話せることですが、僕よりも年上の先輩でフルアナログの作家さんは、絶対に切り替えられないということで、コロナ禍真っ只中のときも四苦八苦しながら今まで通りに原稿を描いていたそうです。もしくは、編集部と相談し、一定期間連載を休むなどの判断をしていたようですね。

 コロナ禍のアナログ作家の仕事場の混乱は、凄まじかったと思われます。僕は幸いにも多少は切り替えができていたおかげで、まだ混乱せずに済んだほうかもしれません。

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