「高市政権の物価高対策は逆効果」と専門家が指摘 「強制的に物価を下げても“治療”にはならない」
日本の特殊な状況
円安傾向の是正も、容易ではないという立場で、
「円安に歯止めをかけるためには、日銀が金融政策を引き締めて、円の供給量を減らす、すなわち利上げを行わねばなりません。しかし、日銀は思い切った利上げには踏み切れないでしょう。利上げをすると政府債務の利払い費が増加するため、国債市場が不安定化するという構造的な問題がありますから」(小林氏)
元財務官僚で法政大学経済学部教授の小黒一正氏は、現下の為替のトレンドをこう捉えている。
「経済学の教科書では長期金利が上昇すれば円高が進むとされています。では今、長期金利が上昇しているにもかかわらず、円安が進行しているのはなぜか。その答えは、名目金利と実質金利の違いにあります。金利を考える上で重要なのは、インフレ率を考慮に入れた実質金利なのです」
「実質金利」は、「名目金利」から「インフレ率」を差し引いたものである。
「現在、日本の名目金利は1.5%前後から1.8%程度にとどまっていますが、インフレ率は約3%です。その結果、日本の実質金利は恒常的にマイナスの状態にあります。一方、欧米の主要7カ国では、名目金利がインフレ率を上回っており、実質金利はおおむねゼロからプラスの水準にあります」(同)
日本が実質金利でマイナスとなっているのは、国際的に見ても特殊な状況だというのである。
「為替レートは実質金利差が重要な説明変数の一つであり、高い収益率を求めて、マネーは実質金利がプラスであるドルなどの資産へ移動します。この流れが継続することが、輸入物価を押し上げインフレ圧力を継続させる円安の原因となっています」(同)
「望ましい政策戦略は明確」
では、お米券配布などの対症療法によらない施策はどうあるべきか。
先の小林氏は、
「政府が日銀の利上げを容認するだけでなく、積極的に利上げを行うように後押しする必要があります」
と説いた上で、
「日銀が利上げしやすい環境を整えるためにも、政府債務が減少する流れをつくらないといけない。財政支出の伸びを極力抑えるべきです。ただ、それだけでは景気全体が冷え込み、特に低所得者層の生活が苦しくなるという問題が発生します。なので、低所得者層の支援などに限って財政支出を増やすというメリハリのある財政運営が望ましいでしょう」
前出の小黒氏が言う。
「日本経済にとって望ましい政策戦略は明確です。それは、中程度のインフレ+緩やかな利上げ+財政再建の中庸戦略です。具体的には、インフレ率が2~3%程度であれば、財政は税収増と債務実質圧縮効果を享受でき、家計の負担も一定程度に抑えられます。従って、現状の最適解は、2~3%のインフレ率で安定化させながら、だましだまし徐々に経済を再建していく道筋しかありません」
綱渡りの財政運営こそが求められているというのだ。
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