「じゃあつく」「良いこと悪いこと」大ヒットの衝撃 30代新人脚本家が「三谷幸喜」を蹴散らしたワケ

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展開の速さが共通

 TBS「じゃあ、あんたが作ってみろよ(じゃあつく)」(火曜午後10時)と日本テレビ「良いこと悪いこと」(土曜午後9時)は秋ドラマ最大級のヒット作になった。両ドラマには共通点がいくつかある。脚本家がともに30代前半で、どちらもプライム帯(午後7~同11時)の連続ドラマに初挑戦だった。秋ドラマ戦線は新人脚本家がベテラン脚本家を打ち倒す構図となった。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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「じゃあつく」と「良いこと悪いこと」は全年齢層を対象とする個人視聴率がともに3%強~5%弱と高い。それより突出しているのは40代以下のコア視聴率である。11月第3週(17~23日)は全作品の中で両ドラマが同率トップだった。

 視聴率をもっと細かく見ると、ドラマ離れが深刻なT層(男女13~19歳)も両ドラマはよく観ている。ドラマ好きが多いF1層(女性20~34歳)の個人視聴率は飛び抜けている。

 両ドラマには第1回から構成に共通点がある。どちらも展開が速いところである。動画1.5倍速や2倍速などで観る人がよくいる若い世代に合っていたのではないか。

「じゃあつく」の場合、同棲していた主人公の海老原勝男(竹内涼真)と同・山岸鮎美(夏帆)があっさりと別れた。原作漫画もそうだとはいえ、古くからのラブコメの常識とは異なる。

 ラブコメの常識では、出会いと別れは見せ場。なるべく引っ張る。あるいは余韻を持たせる。だが、このドラマは別れを単なる出来事の1つと捉えた。実際、今の時代の出会いと別れはそう重々しいものではないのだろう。だから「元カレ」「元カノ」という言葉も一般化した。

 ほかの部分もラブコメとして新しかった。まず第1回で2人の欠点を鮮明にした。勝男は昭和期の小学生男子のような女性観を持ち、鮎美も主体性に欠ける。これより、第2回以降は2人が自分の欠点に少しずつ気づき、それをあらためようとする物語になった。自己啓発である。ラブコメとしては珍しい。

 ラブコメの常識破りはほかにもある。たとえば鮎美と別れたあとの勝男は、マッチングアプリで通販会社社長の柏倉椿(中条あやみ)と出会った。椿は勝男宅に来る。一緒におでんを食べ、酒を飲んだ。勝男はベロベロに酔っ払い、椿は泊まった。第3回だった。

 旧来のラブコメなら2人の接近やハプニングが想定されただろう。しかし何も起こらなかった。そうしたことにより、勝男と椿には友情が生まれ、それから勝男は椿に随分と助けられた。男女間に存在するのは恋愛感情のみというのが多くのラブコメの常識だったが、もう実情に合っていないのだ。

 勝男と鮎美がともにダメ人間だったことも人気の理由に違いない。ラブコメに登場する男女に憧れる時代は終わったようだ。勝男と鮎美が身近にいそうな存在だから、親近感が生まれた。

 勝男は自分が完璧だと思い込んでいるダメ男。鮎美もダメな人である。付き合ったばかりのミナトくん(青木柚)と深く考えることなく同棲し、振られた。一時的に行き場に困った。

 さらにインチキフードプロデューザー・長谷川敦子(川上友里)に騙されてしまい、飲食店開店費用を奪われた。職も失った。鮎美は付き合った男性に合わせることばかり考えてきたから、自分で判断する能力に欠けた。

 次回の最終回はダメな2人が復縁するかどうかが見ものである。自分の欠点に気づかされた2人が今度は相手とうまくやれるのか。ヤマ場を最後まで残したところもうまい。タイトルの「じゃあ、あんたが作ってみろよ」という言葉を鮎美が口にするのかどうかも注目点である。

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