「じゃあつく」「良いこと悪いこと」大ヒットの衝撃 30代新人脚本家が「三谷幸喜」を蹴散らしたワケ
脚本家は演劇界の実力派
脚本を担当しているのは安藤奎氏(32)。劇団アンパサンドの主宰者で、演劇用の脚本を書き、演出もしてきた。今年、「歩かなくても棒に当たる」の脚本が演劇界の芥川賞と呼ばれる「第69回岸田國士戯曲賞」に選ばれた。井上ひさしさんやつかこうへいさんらが受賞してきた権威ある賞だ。
岸田賞の受賞作もコメディ。どういう展開になるのかが分かっていながら、セリフが絶妙なので、つい笑ってしまう。勝男がドツボにはまることが目に見えていながら、笑えるのと同じだ。
安藤氏が力のある人なのは間違いない。岸田賞受賞者など話題性も十分。それでいてTBSが安藤氏の露出を抑えているのは好感が抱ける。局によっては新人脚本家を天才と称し、宣伝の先頭に立たせるが、本人の負担になる気がしてならない。
「良いこと悪いこと」は小学校の同級生たちが殺される物語だが、第1回の冒頭で早くも薬剤師・武田敏生(水川かたまり)が殺害される。同じ回の後半では居酒屋店主・桜井幹太(工藤阿須加)も殺されかけた。
これで一段落とならず、第2回はホステスの中島笑美(松井玲奈)が死んだ。「プリティ・リトル・ライアーズ」(2010年)など欧米ヒット・ミステリーも顔負けのスピード感だ。
考察ドラマの弱点は推理に興味のない人は楽しみにくいところだが、このドラマはその弱みを克服した。同級生もほかの主要登場人物の大半も34歳。まだ若いが、人生をやり直すのはちょっと難しい年齢。その心情を繊細に描写した。
中島は自分がいじめていた週刊誌記者の猿橋園子(新木優子)に対し、「やり直したいこと、あり過ぎ」と告げたあと、すぐに殺された。羽立太輔(森優作)はニート。母親の死を乗り越えられていない。やはり猿橋らに「僕はもうみんなの役に立てない」と投げやりに言ったあと、立ち直り掛けたが、殺される。
頻繁に登場する小学6年生の場面も現実味がある。羽立は高木将(間宮祥太朗)らの仲間に入れてもらうため、歓心を買おうと、猿橋がつくった工作を破壊した。大人の大半は壊された側の気持ちを考えるから、まず出来ない。
大物偏重の弊害か
だが、子供の場合は倫理観が完成していないこともあるから、羽立の行動も不思議ではない。ときに子供は残酷。このドラマは小6の描写から綺麗事を排除しているから面白い。
書いている脚本家はガクカワサキ氏(33)。新鋭だ。ウィキペディアの項目も12月に入ってから作成されたばかり。大半の登場人物が自分とほぼ同年齢なのは強みだろう。
同年齢、あるいは同年代にしか分からないことはある。このドラマに出てくる音楽やゲームもそう。資料で調べて書くことも出来るが、それではリアリティが削がれる。
カワサキ氏は「じゃあつく」の安藤氏と同じく、演劇をやっており、演劇ユニット「無情報」に所属する。脚本を書き始めたのは立教大時代。NHK教育「忍たま乱太郎」(1993年)など多くの名作アニメを書いている浦沢義雄氏(74)に師事した。
キャリアは十分あるのだが、カワサキ氏がプライム帯の連ドラを書くのは始めて。これまでは準キー局の深夜ドラマや1話完結ドラマの1部分などを書いただけ。ドラマ界の一部にベテランの名前に頼る傾向があるからではないか。観る側には脚本家がベテランでも新人でも関係ない。
カワサキ氏は2020年、ベテランの三谷幸喜氏(64)と脚本を共作した。香取慎吾(48)主演のAmazonPrime「誰かが、見ている」である。このときは三谷氏の名前ばかり報じられたが、今はスポットライトがカワサキ氏に当てられている。
三谷氏は現在、フジテレピ「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」(水曜午後10時)を書いている。11月26日放送は個人視聴率が1.6%で、NHKからテレビ東京まで全6局の中で最下位。コアも最低水準だった。
やはりベテランの岡田惠和氏(66)が書いているフジ「小さい頃は、神様がいて」(木曜後10時)も視聴率は大苦戦。10年度連続視聴率4位に甘んじているフジの秋ドラマ戦線は、新人にしてやられた形だ。
フジは3月末に編成などを担当する執行役員に就いた鈴木吉弘氏(57)の色が、次の冬ドラマには鮮明になる。「ガリレオ」(2007年)などの話題作を次々と生んだ切れ者だ。巻き返しとなるか。
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