中国が台湾占領に成功する「二つのシナリオ」とは 仮に失敗しても「自衛隊は航空機112機、艦艇26隻を失う」
【全2回(前編/後編)の前編】
「存立危機事態」という言葉だけが独り歩きしているが、実際に台湾侵攻が起きた時に何が起こるか分かっている人間はどれほどいるのか。台湾海峡封鎖を発端に中台の衝突は東シナ海へ拡大、戦火は日本にも飛び火する。専門家たちによる恐怖のシミュレーション。
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日中間の緊張が高まる中、米国議会の諮問機関である「米中経済安全保障調査委員会(USCC)」は11月18日に年次報告書を公表した。そこには、日本国民が看過できない指摘が含まれている。早ければ2年後の2027年にも、中国が台湾侵攻に踏み切る可能性があるとの分析である。
元産経新聞台北支局長でジャーナリストの矢板明夫氏が言う。
「中国共産党が軍を『人民解放軍』と呼称しているのはなぜか。中華民国の支配から台湾を“解放”しなければならないと考えているからですよ。27年は人民解放軍の建軍100周年にあたります。その節目に“解放”という悲願を達成しようというわけです」
加えて、5年に1度開かれる次の共産党大会が27年に開催されることも無視できないという。
「故・江沢民氏、胡錦濤氏(82)はいずれも2期10年で国家主席の座を退きましたが、習近平氏(72)はすでに任期を延長しており、4期目も視野に入れているとみられます。しかし、現在の中国は経済の低迷が深刻で、習氏が続投するためには“目に見える実績”が必要とされています。こうした状況からも、27年に台湾侵攻へ踏み切らなければ政権維持が難しくなるのではないかという見方が浮上しているのです」(同)
中国が台湾占領に成功する二つのシナリオ
では実際、中国が台湾に侵攻したら何が起こるのか。米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」が23年1月に行った台湾有事のシミュレーションでは、24通りのシナリオを想定しており、
「中国が台湾占領に成功するのは二つのシナリオにとどまりました。主に、米軍の日本への事前展開が遅れたり、または、日本の自衛隊が米軍に対する後方支援や米軍防護の軍事的な支援を行わなかった場合など、特定の条件が重なったケースです」(元陸上幕僚長の岩田清文氏)
元外務省職員で、米中関係や台湾問題に詳しい皇學館大学准教授の村上政俊氏が語る。
「台湾侵攻の際、中国艦船は、日米台の対艦ミサイルによる撃沈のリスクにさらされます。また、上陸に成功したとしても、海上の補給路を維持し、多数の部隊の作戦継続能力を保つことは極めて困難。台湾侵攻作戦は非常に難度が高いといえるでしょう」
だが、こうも指摘する。
「CSISのレポートは基本的に日米台側の勝利、つまり中国による台湾侵攻の失敗を予想していますが、甚大な損害を伴うと結論付けています」
そのシナリオでは自衛隊は航空機112機、艦艇26隻を失う試算となっている。
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