「クマ被害」を防ぐ意外な“奥の手”…カギを握るのは「放棄された果樹」の伐採 「クマを人里に寄せつけずに共存できれば」
連日、日本中を震撼させているクマ騒動。クマが市街地に出没し、人を襲撃するケースは後を絶たない。そんなクマが人里にやって来る要因として挙げられるのは、山に食べ物がない一方で、人里には果物が実った樹木がたくさんあるためといわれている。確かに、地方に行くと、空き家の庭に柿などの木が実ったまま放棄されているのを見かける。
空き家は所有権が不明になっているケースも多く、庭の果樹を行政などの第三者が無許可で伐採することも極めて難しい。また、家主が高齢になり、実を採取できずに放置しているケースも見られる。こうした樹木を“放棄果樹”といい、クマの誘引材のようなものになってしまい、クマが人里に出没する原因の一つになっているのだ。
さて、放棄果樹とクマを巡る問題は、本州のツキノワグマと、ヒグマが生息する北海道では少々事情が異なるのだという。北海道のヒグマ事情に詳しい環境市民団体「エコ・ネットワーク」の代表・小川巌氏に話を聞いた。小川氏は2020年から、札幌市や市と連携するNPO法人と協力して、放棄果樹を撤去するボランティア「クマボラ」を組織している。【文・取材=山内貴範】
【写真】ヒグマの好物の源・放棄果樹を伐採する「クマボラ」メンバーたちの姿
営業を止めた観光農園にヒグマが出没
――北海道でヒグマの餌になる放棄果樹が増えている背景には、人口減少や高齢化などの影響が大きいのでしょうか。
小川:本州の放棄果樹はカキのイメージがありますが、私が暮らす札幌郊外ではリンゴ、ナシ、モモなどが中心で、柑橘類を除いてほとんどのモノがあります。札幌の中心部の南側には観光農園を中心とした、果樹園地帯があります。定山渓温泉に向かう観光客を意識して、50~60年前から整備された観光農園がたくさんあるのです。
ところが、そうした観光農園が、後継者がいないとか、高齢化が進んでいるなどの理由で営業をやめる事例が増えました。小規模なものでも1~2ヘクタールほどの広さがあり、果樹もたくさんあります。特に多いのがサクランボで、札幌では6月末~8月上旬にかけて実を付けるのですが、これが格好のクマの餌になってしまうのです。
――ヒグマはサクランボが好きなのでしょうか。
小川:ヒグマは、冬眠から明けた後、しばらくは草やフキを食べています。ところが、夏になるとフキが固くなるので、食べなくなってしまう。それに代わるものとして、ほったらかしになっているサクランボが絶好の餌になるのです。
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