【香港・高層団地火災】被害拡大の要因は“防護ネット”と“発泡スチロール”か 住人たちを悩ませていた「大規模修繕工事のトラブル」とは
26日午後、香港郊外の大埔(タイポー)で発生した高層団地火災。瞬く間に延焼し、夜空の下で複数の棟が真っ赤な炎に包まれる様は、日本にも大きな衝撃を与えた。27日朝までに炎の勢いは峠を越えたものの、28日午前0時時点での死者は消防士1人を含む83人、病院に搬送された負傷者は消防士11人を含む76人。行方不明者数が一時は270人超と発表されたこともあり、死者の数は今後も増えると見られている。香港当局は27日未明に工事関係者3人を逮捕するなど出火原因の究明を急いでいるが、一体なぜこれほどの大火災となったのか。
パニックに陥った住人たち
火災が発生した「宏福苑」は30階超の高層住宅8棟から成る分譲団地。居室数は1984室、居住者数は推定約4700人のいわゆるマンモス団地である。そのうちの1棟、宏昌閣の外側下部から出火したという通報が相次いだのは、26日午後2時50分ごろのことだった。
風に煽られた炎が上部へ燃えひろがる様はまるで炎の柱のよう。勢いを増した炎は瞬く間に延焼し、発生時は3級だった火災警戒レベルが1時間足らずで4級、午後6時22分に最上位の5級に引き上げられた。消防と救急の計800人近くが現場に急行したが、建物内部が異常な高温となり消防士に死者が出るなど突入が困難を極めたため、最終的には7棟が猛火に包まれた。
夜空の下で赤々と燃える団地の脇には、パニックに陥った住人たちの姿があった。「家族と電話がつながらない」と泣き叫ぶ人、家族と築いた城が焼け落ちる様を呆然と見上げている人、家族の名前を書いた紙を掲げて歩き回る人、複数の避難所を巡って家族を探し続ける人――。
27日明け方には無惨に焼け爛れた現場となおもくすぶる炎が確認され、その後も消火作業と救出活動が続いた。午後6時45分には宏道閣の上階から新たに男性が救出されたが、数時間後には別の棟から炎と黒煙が上がった。消防処が消火作業の「ほぼ完了」を宣言したのは28日未明のこと。死傷者は火の勢いが強かった2棟に集中し、生存者は複数の棟に分散していたという。
原因は「竹の足場」ではない?
すでに報じられている通り、宏福苑では大規模修繕工事が行われており、8棟は竹の足場と防護ネットなどで覆われた状態だった。
「竹棚」「搭棚」と呼ばれる竹の足場は、軽量・低コスト・道幅が狭い場所でも設営可能といった利点から、香港では公的な規則を定めた上で一般的に使用されている。ナイロン製の紐を使い人力で組み上げる職人技でもよく知られているが、火災発生当初から「延焼の主要因」とする向きがあった。
だが、そもそも竹が使用されている理由はその燃えにくさにある。火災発生翌日の現場を見ても、竹棚は多くの箇所で燃えていない。香港天文台の元所長・林超英氏は27日のSNS投稿で「竹棚に罪はない」と主張し、竹の足場に焦点が当てられている現状に疑問を呈した。
問題は竹棚に付属する別の用具だった可能性があるようだ。香港警察は27日未明、修繕工事を請け負った業者の取締役2人と技術コンサルタント1人を過失致死の疑いで逮捕。追って開かれた香港当局の会見などでは、建物の外壁から発見された防護ネットや防護フィルム、防水シート、ビニールシートなどに、防炎基準を満たしていないものがあるとの疑いが明らかになった。
延焼を逃れた棟では、エレベーターホールの窓が燃えやすい発泡スチロールのシートで覆われていたことも確認された。香港当局は、炎上した他の棟も同様であれば、炎が急速に広がる一因となった可能性があるとした。
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