【香港・高層団地火災】被害拡大の要因は“防護ネット”と“発泡スチロール”か 住人たちを悩ませていた「大規模修繕工事のトラブル」とは

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発泡スチロールと防護ネット

 宏福苑管理委員会の委員長は香港メディアに対し、この発泡スチロールのシートが8棟の居室すべての窓に貼られていたことを認めた。住人のSNSグループに投稿された写真にも、養生テープが貼られた窓の外に薄い発泡スチロールのシートがあり、その外側が竹の足場と防護ネットで覆われている様子が写っている。さらに28日未明には、消防処も複数の棟で発泡スチロールのシートが見つかったことを公表した。

 発泡スチロールのシートが貼られていた理由は、外壁工事で生じた破片による窓の破損防止だったが、委員長によれば、防炎基準に関する証明書は提出されていない。防護ネットについては、請負企業が「試験実施済み」を主張したという。

 防炎基準を満たしていない防護ネットの使用は、かねて多くの建築専門家たちが警鐘を鳴らしていた。防炎基準を満たすものより安価なため、多数の現場で使用されているという。宏福苑については、専門家の1人が「消防処にメールで投書していた」と発言したことも注目されているほか、足場に塗料などを放置していたのではないかという指摘もある。

 別の専門家は、建物の「十字型」と呼ばれる構造により、換気口とエレベーター経路に垂直の空間が存在することを指摘した。これが熱風と濃煙を運ぶ煙突となり、温度上昇と延焼速度を加速させた可能性があるという。加えて香港ではここしばらく、乾燥と強風などによる火災警戒警報が絶えず発令されていた。

火災前から発生していたトラブル

 住人のSNSグループは大規模修繕工事を巡るトラブルを報告・検討する場でもあった。この修繕工事はそもそも、住人たちにとって大きな悩みの種だったのだ。

「高額過ぎる大規模修繕費用に住人激怒」と報じたのは、2024年7月に香港TVBテレビで放送されたレポート番組「東張西望」である。大規模修繕費用を3億3000万香港ドル(約66億円)とした管理委員会は、8棟の全室に対し16万~18万香港ドル(約320万~360万円)の負担を決定。「半年間で6回に分けて支払え」とする通知を“突然”出していた。

 住人たちによる猛抗議の末、管理委員会を再編成して金額を見直すことになったが、次には修繕工事についてのトラブルが発生。住人のSNSグループでは、現場作業員の喫煙なども報告されていた。

 この吸い殻が火元ではないかという指摘もあるが、現時点では確定していない。また「8棟の修繕工事を一度に実施するべきではないと意見を言っていた」という住人の証言も一部メディアで報じられている。

カネと政治の“厄介な話”

 焼け出された住人たちへの救援は官民総出で行われているが、避難先住宅の治安に対する不安の声なども見受けられる。3カ月後の旧正月を前に何もかも失うという現実も深い絶望につながっており、メンタル面のケアも急務だ。

「宏福苑」は政府の補助金付きで販売された中・低所得者向け住宅のため、住人たちがどのように生活を立て直すのかなど、今後の問題は山積している。たとえ出火原因が判明しても、住人たちの不安と絶望が払しょくされるとは言い難い。

 27日午前、逮捕されたうちの1人は裁判所で詐欺罪1件について有罪を認め、仮釈放された。起訴内容によれば、偽造した他社の見積書を入札案件で使用し、十数件の落札に成功したという。

 管理委員会の顧問だった地元選出の区議員が、修繕工事計画における事実上の“推進役”だった事実も掘り返された。高額な修繕工事費用への理解を求めた経緯などから、請負業者の選定に関与したという疑惑も生じ、区議員の所属政党が否定声明を発表する事態となっている。

 火災と周辺事情に対する高い関心を受け、汚職専門捜査機関の廉政公署(ICAC)は27日、修繕工事計画に何らかの汚職が存在する可能性を探るとして特別捜査班を立ち上げた。先に香港警察と消防処は合同体制を取り、火災を刑事事件として捜査する方針を示している。

 カネと政治に絡む厄介な事件も発覚しかねないこの大火災、“完全鎮火”には当分至らないようだ。

デイリー新潮編集部

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