「相手の思うツボ」で山里亮太が物議…テレビにとって「政治的公平性」とは何か
問題は放送法
芸人コメンテーター・立川志らく(62)と同MC・山里亮太(48)の日中問題に関する情報番組での発言が、SNS上で物議を醸している。番組はそれぞれTBS「ひるおび」(平日午前10時25分)と日本テレビ「DayDay.」(平日午前9時)。問題の背景を解き明かす。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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志らくは高市早苗首相(64)による国会での台湾有事発言について、24日放送の「ひるおび」でこう説いた。
「中には高市さんの発言でパンダが来なくなっちゃうから、けしからんという人がいるんだけど。高市さんの発言が明らかに間違ってるならそう言われても仕方ないんだけど、間違ってるわけじゃないでしょ」
さらにこう高市氏を擁護した。
「なぜ、そこで高市さんを非難するのか。中国が言ってくるのは分かる。ただ、日本でもそういう人がたくさんいるってことは、あなた方なんで。日本人じゃないのという気すらする」
山里は同日放送の「DayDay.」でこう主張した。
「国会での情報の扱い方が結果的に影響してしまったという側面があると思っていて。与党野党というよりも、国会全体の質問の質の問題だと思っているんです」
こちらも高市批判を牽制した。中国に利するからという理屈だった。
「国内で政権を叩くようにもっていったら、むしろ相手(中国)の思うツボになってくるんじゃないかなあ。その危険の一端を担わないようにしたいと思います」
2人の発言には賛否両論あるが、内容が正しか否かを問うつもりはない。疑問だったのは政治的に公平でないようにも映ったこと。同じ指摘がSNSにも渦巻いた。
仮に政治的に公平でなかったら、放送法違反になる。同法4条2項に「政治的に公平であること」と定められているからだ。放送法の核心部分である。テレビ番組は与党に肩入れしてはならないし、野党の後押しも厳禁なのである。ご存じだろう。
テレビ番組は政治的公平を守っていないという指摘は古くからある。総務相だった当時の高市氏は2016年、テレビ番組が政治的公平の違反を繰り返した場合、局にペナルティとして電波停止を命じることもあり得るとの認識を示した。最後通牒だった。
日中問題を語る適任者か
また放送法4条4項はこう定めている。「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」。高市氏の支持率は高いが、反対派も存在する。それなのに「ひるおび」と「DayDay.」は志らくと山里の主張に対する対論を用意しなかった。
もっとも、仕方がない面もある。芸人が情報番組のコメンテーターを務め始め、MCまでやるようになったのは2010年代以降。役割は視聴者感情の代弁である。凶悪事件が起こると、視聴者に代わって素朴な怒りを爆発させる。死者の大勢出た事故では悲しむ。政界の話にも踏み込むが、それは誰の目にも善悪が分かる汚職や選挙違反ばかりだった。
ところが、日中問題は過去に日本が直面したことのないような難題。外交の専門家の間ですら意見が割れている。専門がお笑いである志らく、山里が視聴者に提言したり、解説したりするのは無理だろう。
発言の中身の精度が問われてしまうし、政治的な偏りを指摘する視聴者も出ている。事件や事故を扱うのとは違う。そもそも芸人やタレントが世の中のすべてについて語るコメンテーター制度を設けているのは世界中で日本だけ。奇特なシステムなのである。海外でニュースを扱うのは専門家だ。
飲み屋での雑談や放送法のないYouTubeなら、自分の責任の下で芸人やタレントが何を話したって許される。だが、テレビ局は朝から晩まで放送法から逃れられない。
現在のような事態を予期し、放送法4条をなくすことを早くから検討していたのが故・安倍晋三元首相。2018年までの規制改革推進会議で撤廃を検討させた。違法状態になることなどを危惧した。法治国家だからである。
しかし「政治的公平は重要」とする与野党、テレビ界の反対によって実現しなかった。識者も大半がノーの声を上げた。
ちなみに米国には放送の政治的公平など存在しない。以前はフェアネス・ドクトリン(公平原則)があったものの、言論の自由を阻害するとして2000年に撤廃された。
日本には政治的公平がある。にもかかわらず、厳に守られているとは思えないのが実情だ。たとえば首を傾げたのは「ひるおび」と「DayDay.」の制作側のことである。
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