「僕は役者としてこの世で一番下手」 仲代達矢さんの謙虚な素顔 「朝8時撮影開始でも4時には現場に」

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“僕は役者としてこの世で一番下手だから”

 仲代さんについて、みな口をそろえるのが、その謙虚さである。横澤によれば、

「撮影開始が朝8時だとすると、仲代さんは4時には現場入りする。どうしてこんなに早く現場に行くのか尋ねると“僕は役者としてこの世で一番下手だから、早く行って練習しないといけないんだよ”と。“たまたま僕みたいなキャラクターがいなかったから今があるけど、それは容姿に限った話。中身が伴ってない役者なんだ”とも言っていた」

 また、仲代さんは戦争体験を語るのも忘れなかった。87年に入塾した女優の渡辺梓(56)が述懐する。

「よくお話しされていたのは、小さな女の子のことです。爆撃から逃れるために、近くにいた女の子の手を引いて一緒に逃げていると、急に女の子が軽くなった。振り返ってみると、腕しかなかった、と。生き続けることを大切にして、命を粗末にするような事件に対しては、いつも悔しさをにじませていました」

 健康面への気遣いも怠らなかったようだ。

「毎晩の晩酌は欠かさない一方、体に少しでも異変があると医者に診てもらっていた。“だから大病したことがない”と言っていました」(無名塾関係者)

セリフが飛んだ仲代さんから猛謝罪

 さて、彼が取り組んだ舞台は、無名塾に限らない。

「かつて仲代さんと『愛は謎の変奏曲』という二人芝居をやりました」

 そう振り返るのは、俳優の風間杜夫(76)である。

「仲代さんはとにかく稽古熱心で“2カ月間、稽古したい”とおっしゃるんです。でも、僕は無類の稽古嫌いなんで“1カ月にしましょうよ”と。結局、1カ月になったのですが、仲代さんはその1カ月間、午前中は無名塾の俳優さんを使って自主稽古して、午後は僕と稽古。だから仲代さんは結果的に2カ月分の稽古をしていたんです」(同)

 仲代さんは、せりふを部屋の壁や天井に貼って覚えることで知られていた。

「実際、せりふを覚えることには苦心していたようで、本番中に何回か、せりふが出てこないことがありました。カーテンコールの後、肩を組んで退場するときに“風間君、ごめんね。明日はちゃんとやるから”と、ものすごく謝っておられて。そういうかわいらしいところもありました」(同)

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