秋ドラマの明暗 「じゃあつく」は“間口の広さ”で圧勝、三谷幸喜脚本「もしがく」はなぜ大コケしたのか
「エスパー」は想定通り?
視聴率1位は「日曜劇場 ザ・ロイヤルファミリー」(日曜午後9時)。個人は6.3%(世帯10.4%)。コアもトップクラス。原作小説があるものの、脚本は演劇畑の喜安浩平氏(50)が書いている。
軸は競馬の話だから、これだけでは間口が狭い。このため、さまざまな要素が付け加えられた。主人公で人材派遣会社の競馬事業担当者・栗須栄治(妻夫木聡)と元恋人で生産牧場の長女・野崎加奈子(松本若菜)の愛を再燃させた。
また栗須のボスで馬主の山王耕造(佐藤浩市)とその家族には確執があることにした。さらに山王はがんに冒され、余命は限られている設定に。視聴者1人ひとりがドラマのどこかに共感するように努められている。
視聴率2位はテレビ朝日「相棒24」(水曜午後9時)で個人5.8%(世帯9.8%)、3位は同「緊急取調室」(木曜午後9時)で個人4.9%(世帯8.7%)。人気シリーズものである両ドラマには共通点が多い。
まずコアはかなり低い。毎回ほほ同じパターンで進む1回完結のドラマを若い人は好まない。また各局はドラマによって局のイメージを上げようとしているが、シリーズ作品はどんなに視聴率が良くてもほとんど話題にならない。洋服や車がロングセラー商品より新しい商品が話題になりやすいのと同じである。
視聴率5位は日本テレビの考察ドラマ「良いこと悪いこと」(土曜午後9時)の個人3.6%(世帯6.1%)。主演は間宮祥太朗(32)と新木優子(31)である。2人を始め、34歳たちの物語ということもあり、コアが高い。脚本は演劇畑の33歳の新鋭・ガクカワサキ氏が書いている。テンポが良く、場面転換もうまい。
当代屈指の人気脚本家・野木亜紀子氏(51)が書いているテレ朝「ちょっとだけエスパー」(火曜午後9時)は個人3.2%(世帯6.2%)と中程度。コアはかなり悪い。大泉洋(52)ら主要登場人物が全員中年で、なおかつエスパーという非現実的な設定だから、やむを得ない。
ただし、野木氏にとってこの視聴率は想定通りではないか。近年の野木氏は見せたい人に届けばいいという姿勢だ。沖縄の米軍基地兵士の非道と地元女性の哀話を描いたWOWOW「フェンス」(2023年)も最初から観る人を選んでいた。傑作だったが、地上波では難しい。
TBS「海に眠るダイヤモンド」(2024年)はエンタメ性よりヒューマンドラマ性を重視したため、視聴率がやや低く、それを指摘する報道がいくつもあった。だが、結果的に今も感動の声が止まない。この作品において野木氏はそれほど高い視聴率を見込んでいなかったはず。大人が生きることの意味を考えてくれたら、十分だったはずだ。
「ちょっとだけエスパー」の場合、大泉はリストラされ、妻には愛想を付かされた。ディーン・フジオカ(45)は家族のために戦ったものの、捕らえられ、帰る場所はない。
高畑淳子(71)は愛する人に騙され、刑務所暮らしとホームレスを経験した。宮崎あおい(39)は愛する人を失ったショックで記憶が混乱している。
こんな悲しい人たちを若い人が我が事のように受け止めるのは難しい。野木氏は自ら間口を狭めているのだろう。彼らの痛みが分かる人だけ観てくれればいいと考えているのではないか。
こう眺めてみると、若手脚本家の活躍が著しい。脚本家は作品で勝負するもの。大物脚本家だからといって特別視することはない。大物に過大な期待をするのも酷だろう。
大物の一部はテレビ界とくんずほぐれつの関係にあり、それもあってドラマ賞などを獲りやすい傾向が見受けられる。こんなことは一掃しなくてはならない。視聴者が監視の目を強めれば可能だ。
どんな業界も若手の芽を摘んでしまったら、将来がない。
[3/3ページ]

