「幼馴染は白い怪物に食べられてしまったに違いない」中2少女の衝撃の告白 神隠しにあった14歳の行方は【川奈まり子の百物語】

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悪い夢

 冷たい風に顔を撫でられて、穂乃花は目を覚ました。

 空いているベッドの方から強い風が吹きつけてきていた。

 見ると、ベッドの上に、人間の3倍もありそうな巨大な白い塊があり、薄っすらと発光しながら、柔らかそうな表面を盛んに波打たせているではないか。

 ――これは夢に違いない。

 夢なら何でもありだ。餅かマシュマロの怪物みたいなのが登場しても不思議ではない。

 そんなことを思いながら、薄暗い中で目を凝らしていると、ボコボコと泡立つように蠢く白い塊の内側から、ニューッと顔の輪郭が浮き出してきた。

 初めは真っ白なレリーフのようだったのが、やがて薄く引き伸ばされた白い皮が破れて、人間の顔が出てきた。

 それを見て、穂乃花は驚いた。
 
 現れたのがリナの顔だったからだ。
 
 その顔は眦(まなじり)が裂けそうなほど目をみひらいて、束の間、黒目をグルグルと彷徨わせたかと思うと、いきなり穂乃花に視線を向けた。

「タスケ……テッ!」

 かすれ声で訴える、その口の端から赤黒い液体がツーッと顎を伝ってゆく。

 まばたきもせずに、こちらを凝視する血走った目の恐ろしいこと。

 白い怪物から吹きつけてくる風の冷たいこと。

 穂乃花は、たまらなくなって目を閉じた。

「タスケテタスケテタスケテタスケテ……」

 助けを求める声が徐々に弱々しくなってゆく。

 恐怖のあまり固く閉ざした瞼のあわいから涙が溢れてきたが、尚も耐えていると、しばらくして、ついにその声が聞こえなくなった。

 そこで、おそるおそる目を開けてみたのだが、穂乃花はたちまち絶望するはめになった。

 依然として白い塊が隣のベッドの上にあったばかりではない。

 塊の中から細長い腕が生え、大きな手が蜘蛛の肢のように細長い5本の指を広げてリナの顔をすっぽりと覆い、白くて柔らかそうな巨体の中へ押し込めようとしているところだったのだ。

 あっという間にリナの顔は、覆っていた手と共に、白い塊の奥へ沈んで見えなくなり、それと同時に、穂乃花の意識はプツンと途切れた。

穂乃花の告白

「あれは夢だったのでしょうか。常識的に考えれば夢に決まっていますよね。でもリナが消えてしまったということは夢ではなかったのかもしれないと思いませんか」

 7年前の出来事を語り終えた穂乃果さんは、確認するように筆者に訊ねた。

「お気持ちはわかりますが、あまりにも……」と私は口ごもってしまった
あまりにも非現実的に感じられたからだ。そこで、こんな質問を彼女に投げかけてみた。

「朝起きたときには、リナさんがいなくなっていたこと以外、部屋のようすには変わったところは見られなかったんですよね?」

「ええ。まったく。ただ……その後、何度も、リナが外国語で何かつぶやく夢や幻を見るようになったんです」

「夢だけではなく、幻も? 幻覚という意味ですか?」

「どうなのでしょう……。つい最近も、アルバイトから帰った夜の10時頃に、大学の寮の部屋のドアを開けたら部屋の真ん中にリナが立っていて……ブツブツ、ブツブツ、何か言っていました。何語なのかは、わかりません。日本語でも英語でも中国語でもない、聞いたことがないような言葉なんです。リナは14歳の姿ではなく、今の私と同じように成長していて、白くて柔らかな物質で出来た全身タイツのようなものを着ていました」

 その幻は、部屋の電気を点けると同時に消えてしまったのだという。

 ――ここまで聞いて、私は、リナさんは異世界にさらわれて、そこで生きているのかもしれないと想像したのだが、如何だろうか。

 なんとも不可思議な話である。
 
―――
記事前半】では、2人の女子中学生が家出に至った理由と、リナが行方不明になるまでに起こった出来事が語られる。

川奈まり子(かわな まりこ)
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

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