“女性3人の首を絞めて殺害”“犯行は週末のみ”…「歌舞伎町ホテル連続殺人事件」の捜査が難航を極めた“昭和の繁華街”ならではの特殊事情

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指紋が出た!!

「その男を帰したらダメ!」

 もう1人の従業員にそう叫んだが、男は料金4800円と飲み物代を払わず逃走、従業員が20メートルほど追いかけたが、男を見失ってしまった。女性の意識は薄かったものの、体温はあった。救急車で病院に搬送されたが、1時間後に死亡した。

 女性の衣類やバッグは残されていたが、財布や身分証明書はなし。しかし、所持品にあった、図書館で借りた3冊の本から、埼玉県川口市在住の女子工員(17)と判明する。首のほかに、両足首にも絞められたような跡があり、これまでの事件との類似性が浮かんできた。

「被害者の体に付着した体液などから、犯人の血液型がA型であることが分かりました。また、初の手がかりとして、現場に残された湯飲みから、犯人の指紋も検出しています。不特定多数の人間が利用する場所ゆえ、指紋検出は難しいのですが、湯のみだけは客ごとに真新しいものを提供していたことが幸いしました」(前出・記者)

 目撃された男は身長160―165センチ、黒ぶちメガネのサラリーマン風。明るい紺のスーツ上下に白いワイシャツ姿だった。解剖の結果、被害女性はホテルに入る前にコーヒーを飲んだことが判明、新宿の喫茶店で男と落ち合い、ホテルに入ったのではないかと想定された。

 事態を重く見た新宿署は、新宿旅館組合加盟のホテル・旅館経営者らと話し合いの場を設け(6月17日)、客に宿帳を書かせるようにすることなどを求めた。「協力していただけない場合はその付近に制服警察官を配置したり、パトロールを強化したりする」という、極めて強い要請だった。これ以上の被害者を出すわけにはいかない。

 三つ目の事件については、こんな情報もあった。

〈新宿署特捜本部は十五日、犯人が芸能プロダクション関係者の疑いがあるとみて別働班を編成、中小プロを中心に集中捜査に乗り出した。(被害者は)中学三年のころからテレビタレントを目指すようになり、ごく最近も友人に「プロダクションを知らないか」と聞いている。たびたび新宿に一人で遊びに来たのも、芸能界入りのつて探しの意味があったという〉(読売新聞 昭和56年6月16日付)

 さらに、この事件の被害者からも覚せい剤反応が出たこともあり、この線の捜査も継続されたが……結局、犯人はつかまらず、1996(平成8)年に時効が成立する。

 3事件とも、目撃証言から犯人はサラリーマン風だった。犯行日時を見ると第一事件(金曜日の早朝)、第二事件(土曜の夜)、第三事件(日曜日の夜)と、土日休みのサラリーマンならば当てはまりそうな行動ではある。首を絞めて殺害する手口も同じだ。

「さらに6月25日、金曜日の午後11時ごろ、歌舞伎町のゲームセンターでナンパされたホステス(30)が男とホテルに入り、うとうとしていると突然、男にネクタイで首を絞められました。激しく抵抗すると男は逃げましたが、サラリーマン風だったなど、この男の特徴も3事件と似ており、手口も似ていることから、おそらく同一犯ではないかと見られたのですが……」(同)

 捜査第一課は、本シリーズ第5回で取り上げた、深川通り魔殺人事件(6月17日発生)などの発生・対応もあり、徐々に捜査本部も縮小されていったという。目撃情報の通りであれば、犯人は現在80歳代……街の隅々に防犯カメラが設置され、昼間も夜間も、パトカーによる警らが行われる歌舞伎町をどんな思いで見つめているだろうか。

【第1回は「発見された女性の遺体には“手首と足首”に縛られた痕跡が…『歌舞伎町ホテル連続殺人事件』が“昭和のネオン街”を震撼させた夜」前代未聞、3カ月で3人が犠牲になった衝撃の事件】

デイリー新潮編集部

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