仲代達矢さん追悼で再注目…“「勝新太郎」降板騒動” 意外な出演者が語った「主役は変えるべきじゃなかった」

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「主役は仲代達矢さんになったんですけど…」

 ところで、今回の騒動について、撮影現場はどう見ていたのか? 黒澤監督とも親交があり、「影武者」で役者デビューした電撃ネットワークの南部虎弾さん(出演クレジットは南部虎太になっている)が生前に筆者に振り返っていたことがあった。

「僕は、黒澤監督を盛り上げる『三十騎の会』に入っていたんですよ。それで、映画にも出演したんですが、監督と勝さんとの騒動は現場でも大きな話題になりました。監督は『演技は俺が見ているからいい』『俺がOKだったらOK』と常々言っていた。結局はアーティスト同士の戦いなんですよ。映画は監督のものと言いますが、主張する俳優と主張する監督はうまくいかなかったということですかね」

「黒澤監督は、本当に我がままでしたからね。『影武者』の撮影では1年間、一緒だったんですが、常識では考えられないことばかりでした。僕は、スタントマンのようなこともやったんですが、どんなに危険なシーンを撮影するときも救急車を呼ばないんですよ。何回も馬に踏まれそうになりました。ただね、今でも思うのだけど、黒澤監督のためなら命もいらないという気持ちで撮影に挑んでいました」

 さらに、こんなことも……。

「結局、主役は勝さんから仲代達矢さんになったんですけど、やっぱり、あの映画の主役は変えるべきではなかったと僕は今でも思います。あの映画は勝さんの主役で企画され、脚本も勝さんの主役ということで書かれたんですから……。当然、監督だって分かっていたと思う。あの役は仲代さんではないんですよ。確かに俳優としての仲代さんは素晴らしいですが、映画『影武者』の武田信玄というのは勝さん以外、演じられなかった。やっぱり、勝さんの持っているキャラクターというか器なんですよね。ただ、結果的に仲代さんにとっての代表作にもなったことは確かでしたが……」

 主演は仲代さんに代わったが、配収は27億円となり、80年の邦画配給収入1位となった。さらにカンヌ国際映画祭では最高賞の「パルム・ドール賞」を受賞した。

周囲にだけ明かしていた勝さんの胸中

 ちなみだが、降板騒動後も、勝さんは気心の知れた、ごく限られた評論家や映画記者には会った。だが、そこでは「影武者」の話はしないという条件だったと言われる。降板の“後遺症”は、想像以上に大きかったようだ。彼らとの会話で勝さんは、

「気晴らしに1ヶ月ばかり米国に出かけようかと思っている」

「今後のことを1人でじっくり考えてみようかと思っている。みんなから“反省旅行”と思われても構わないさ」

 と語っていたという。

「影武者」は、12月31日にNHK―BSで追悼番組として放送されるというが、勝新太郎さんから仲代達矢さんへの主役交代劇は、波瀾万丈の出来事として歴史に刻まれている。

渡邉裕二(わたなべ・ゆうじ)
芸能ジャーナリスト

デイリー新潮編集部

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