強制送還のコストは「1件1200万円~4000万円」! リクツ通りにはいかない「強制送還」の現場
高市内閣での小野田紀美大臣の外国人政策に大きな期待を寄せる向きは少なくない。とりわけ「不法滞在の外国人を何とかしてほしい」といった考えを持つ人からの支持は絶大だ。
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法的には不法残留者に対しては「強制送還」の措置を取ることができる。しかし、相手は生きている人間だ。実務の観点から見れば簡単ではない。コストも手間も膨大だ。1回の送還には1200万円~4000万円かかるというのだ。
仮に強制送還を増やすとした場合、首相や大臣というよりも、強制送還に付き添う護送官をはじめ現場の苦労は並大抵ではない。
あまり語られない強制送還をめぐる問題について、ジャーナリスト・三好範英氏の著書『移民リスク』から紹介する(以下、同書をもとに再構成。記述は刊行時のものです)。
入管法改正で送還は進むのか
改正入管法は、2024年6月10日に全面施行された。送還忌避者の解消が目的の一つであるからには、まず注目されるのは、具体的に送還をどのように進めるのか、実際にはかどるかどうか、である。
たとえばクルド人の場合、明らかに難民該当性がなく、不法残留、不法就労している多くのケースがある。数としてはそちらの方がはるかに多いのだから、まずそうした人々を迅速、確実に送還することが求められる。送還忌避者の数が少なくなれば、その分、人的資源、時間を、難民該当性があるかどうかの境界にいる人に対する丁寧な審査に振り向けることができる。
クルド人は、日本に血縁、地縁のネットワークがあるのと同様、地元トルコにも同じようにネットワークを残している。ほとんどの人が、送還されても新たな生活を始めるのにさほど障害がないと思われる。国民健康保険にも入れぬまま、劣悪な労働、生活環境に置かれ続けているよりも、長い目で見れば幸せだろう。
特に犯罪を起こした外国人を躊躇なく送還することを、多くの日本人が求めている。改正入管法では、3年以上の実刑判決に処された人は送還停止効の例外としたが、特に性犯罪を起こした人は、刑期を終えた後、日本にあえて留め置くべきではないだろう。
困難さを増す送還の現場
2010年3月、ガーナ人男性(45歳)が入国警備官に付き添われ、強制送還のために飛行機に乗せられたが、機内で大声を出すなど抵抗したため猿轡をされ、両手足を縛られた。男性は機内で死亡し、遺族は損害賠償を求める裁判を起こした。最高裁まで争われ、国側が勝訴したものの、それ以降、力で制圧した送還はしにくくなっている。
また、審査請求の棄却通知の翌日にチャーター機で送還されたことは不当と、スリランカ人男性二人が損害賠償を求めた裁判で、名古屋高裁は21年1月、裁判を受ける権利を奪ったとして国側敗訴の判決を下した。また同様の判決が9月、東京高裁でもあった。
それぞれ、棄却決定の通知から送還までの時間が極めて短く、難民不認定取消訴訟を起こす権利を実質的に奪っていると判断された。名古屋高裁の判決を受けて入管庁は、送還の際には通知後2か月以上の時間をおくように運用を見直した。
入管庁筋は「入管法では、退去強制令書が発付されたものは速やかに送還するとなっている。かつては空港に連れて行ってから告知することも実務的にはやっていた。それでも(審査請求棄却の通知前でも、あるいは送還後も提訴は可能なので)裁判を受ける権利は保証されているという判断があった」と言う。
1回の送還で1200万~4000万円
また、送還のために航空機の定期便に乗せることができても、大声を上げて暴れ、機長から搭乗を拒否される場合もある。そうしたケースは16~22年、11件(10人)起きた。チャーター機の活用が効果的だが、一回の送還で1200万~4000万円掛かる。1人を送還するのに護送官が2人、指揮官もつくので、送還する人数の倍以上は護送官が必要だ。2020年3月までに8回チャーター機による送還を行ったが、1回当たり22~75人で、帰国先はフィリピン、タイ、スリランカ、バングラデシュ、ベトナム、アフガニスタンとなっている。これまでの送還先は全てアジア諸国であり、イラン、トルコはない。イランはそもそも送還の受け取りを拒否しているが、トルコの場合は、遠距離であり、直航便はトルコ航空しか就航していなかった事情がある。
日本の航空会社が就航していれば日本からの往復の航空機代で済むが、そうでない場合は送還先の国の航空会社からチャーターするため、機体は、日本に飛来→送還→護送官が日本に帰国→送還先の国に帰る──と2往復する。護送官が定期便で帰るにしてもかなりの数の職員の航空運賃がかかる。
飛行機に乗せ護送に成功したとしても、入国警備官の負担は大きい。入管庁筋は「送還便の機内でおしっこやウンチをして抵抗する人もいる。それでも護送官は隣で付き添わねばならない」と話す。
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法務省は「不法滞在者ゼロ」を理想として掲げている。しかしそれを実行する側の苦労は並大抵ではない。










