芸能人“復帰ブーム”で最も難しく過酷な道 フワちゃんの覚悟を感じた「本気プロレス」

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光る編集センス

 しかし、ただの腰掛けに見えてしまえば逆効果である。「みそぎのためのプロレス」だと受け取られれば、世間からもプロレスファンからも反発を招くことになる。その点についても彼女は自覚的だった。リング上での復帰コメントでも「反省やみそぎのためではありません」と明言していた。本気であることが伝われば、プロレスファンの心をつかみ、世間の評価も変わるだろう。

 復帰発表にあたって彼女のYouTubeチャンネルで公開された動画も話題になっている。休業中の活動内容やプロレスを選んだ経緯などを短い尺でわかりやすくまとめて、ポップな形で表現していた。自分自身が問題を起こしてから復帰するまでの過程というのは、きわめてセンシティブな題材である。そこでふざけたり開き直ったりしているような印象を与えてしまえば、イメージはさらに悪化してしまう。

 その意味でもこの動画は周到に作り込まれていた。動画としてのクオリティは高く、軽いタッチで作られているが、「悪ふざけ」に感じられるようなところはなく、細部まで配慮が行き届いていた。

 主にYouTuberとして活動していた時代から彼女の持ち味だった編集センスが光っていて、クリエイターとしての能力を改めて提示することに成功していた。不祥事を起こした芸能人やインフルエンサーは、ただ神妙な面持ちで頭を下げるだけの謝罪動画をアップすることも多い。しかし、彼女はそのような陳腐な動画を作ることはなく、自分自身のカラーをはっきりと示した。自分の得意分野である動画制作とプロレスに軸足を置いたのはベストな戦略だった。

 復帰コメントでは「この期間で敬語も学びました」と冗談めかして語っていたが、そこには本心も含まれているだろう。彼女は目上の人にも敬語を使わない生意気なキャラクターでテレビに出ていたが、自分自身がそこに縛られ、制御不能に陥っていた側面もあるのではないか。活動休止を経て、フワちゃんは独り歩きした自らのキャラクターをいったんリセットして、本来持っていた身体能力や創造性に改めて光を当てた。このキャラクターの再構築こそが今回の復帰戦略の根幹である。

 今後の展開としては、12月29日の両国国技館大会でプロレスラーとして再デビューをすることになる。そこが本当の勝負どころだ。レスラーとしての資質が本物であることを証明しなければならない。

 もちろん、このままプロレスだけをやり続けるわけでもないだろう。今回の動画で示したクリエイティブ能力を軸にして、作品づくりにも再び力を入れる可能性が高い。

 いま芸能界は「復帰ブーム」の様相を呈している。松本人志、沢尻エリカ、小島瑠璃子など、さまざまな理由で活動を休止していたタレントが次々と復帰を発表している。その中でもフワちゃんの復帰の過程は最も地道で泥臭く、自分自身の力で道を切りひらこうとしているところは好感が持てる。再出発を果たした彼女の今後に期待している。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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