“人前で話すのが苦手”なネットニュース編集者を、5つの講座を受け持つ「プレゼン上手」に変えた「たった2つの方法」
話し方が上手になる方法は2つ
席に戻るとトレーナーは「気にするな。話し方教室なんて行かないでいいよ。だってオレらの仕事は話すことだから、それ自体がトレーニングになっているからさ」と言った。
結局、私は4年で会社を辞めたが基本的にプレゼンはほとんどしていない。資料作りばかりしていて、喋りが上手になることなく会社を去った。この時「あぁ、もう人前で喋らなくていいんだ」と心底ホッとした。
その後、ウェブメディアの編集者になったのだが、2009年以降、ウェブの編集論というものが脚光を浴びるようになる。あとはネット炎上に関しても様々なメディアが注目し、対策の講座などもニーズが高まり始めていた。
この時36歳だったのだが、以降、私は様々な場所で喋るようになる。「宣伝会議」では5つの講座(ウェブ編集・戦略PR・編集者&ライター養成・リスク管理・フリーランスの生き方)を受け持ち、阿佐ヶ谷ロフトAでは、「ネットニュースMVP」と題し、ネット上の珍事件を紹介するイベントをやり続けた。様々な企業や、メディア企業、商工会議所、業界団体の会合でも喋らせてもらった。
不思議だったのだが、こうした場ではまったく緊張しなかったし、プレゼンもきちんとできていた。「場数を踏む」ということが大事だとトレーナーの先輩は言ったが「どうやらそうでもないぞ……」ということが分かった。でなければ、初めての講義でなぜあそこまで落ち着いて話すことができたのか説明がつかない。
では、私はどのように苦手を克服したのか。
「聴衆をカボチャ(石)だと思え」という緊張緩和方法があるが、さすがに人間をカボチャや石扱いはできない。相手は心のある人間なのだ。となれば、自分が相手を人間として尊重し、しかもわざわざ時間とお金を使って話を聞きに来てくれている親切な人、と思うことから始めるべきである。そのため、パワーポイントの資料は綿密に作り、相手が知りたいこと、新しい発見をちりばめる必要がある。結局、話し方が上手になる方法はコレだけだったのだ。具体的には以下2つである。
【1】聴衆がその場を楽しんでくれている、学びがあると思ってくれている
【2】腹から声が出ている
腹から声を出していないから
不思議なもので、聴衆がつまらなそうにしていると焦り、ダラダラと汗が出てくる。適宜メモを取っていたり、笑ったりすると講師の側もやる気が俄然出てくる。何しろネット上の珍事を話すわけだから、思わず笑いたくなってしまうものは多い。それこそ「ネットの集合知」について話す時に、「いやいや、そんなもの、期待できませんよ」と前置きをする。その上で、「ライブドアがプロ野球に参入しようとした時、チーム名をネットで募集したら『仙台ジェンキンス』が暫定一位を走り続けた」などだ。
【2】は補足が必要だ。大学時代の教員が「キミ達は腹から声が出ているか!」と学生に問いかけた。これは、「キミ達は何かを人前で喋る時、本気で信じていることを言っているか?」というものである。結局、会社員時代の私は、PR会社やイベント会社から渡された資料を基に喋っていただけなのだ。自分で考えず、赤の他人の思っていることをあたかも自分が考えたかのように言っていただけ。実に恥ずかしい。というわけで、「話すのが苦手」という人は、とにかく自ら事前の準備を綿密にし、本気で言いたいことを言う。これだけで話し方は上手になる。
国会答弁や、閣僚の会見は基本的には官僚が作ったペーパーを読むもの。そりゃあ心がこもっていないし、本気度は低い。あくまでもその場を凌ぎ、追及をかわすことを考えているだけで、上手な話し方とは言えない。腹から声が出ていないから、不誠実に聞こえるのだ。




