労働生産性が「ぶっちぎり」で低い日本 高市総理の肝いり「労働時間の規制緩和」を進めないとつまずく2つの理由
働きたい人が働けないという問題
高市早苗新総理が就任早々の10月21日、上野賢一郎厚生労働相に指示したのが、現行の労働時間規制の緩和だった。高市内閣の成長戦略の柱に据えるのだという。これに対して、働き方改革の後退を懸念する声も上がっている。だが、筆者は高市内閣の支持者ではないし、多くの「規制緩和」が日本をダメにしてきた歴史も認識しているが、労働時間の規制緩和はぜひ実現してほしいと思う。理由は追って具体的に記したい。
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高市総理が問題にするのは、2019年4月に働き方改革法案の一環として導入された、時間外労働の罰則付き上限規制である。これによって現在、残業時間の上限は原則として月に45時間、年間360時間とされている。繁忙期であるなど特殊な事情があっても、月に100時間未満、複数月の平均で80時間以内に抑えなければならない。
この上限規制は、中小企業にも1年遅れて適用されたが、建設現場や自動車を運転する業務、医師などに対しては、業務の特性や取引慣行などを鑑みて、適用が5年間猶予された。しかし、5年が経過した2024年4月からは、それらの業種も例外ではなくなった。このため昨年、いわゆる「2024年問題」が騒がれたのである。
2024年問題は各方面になおも深刻な打撃をあたえている。物流や運送業界のドライバーを例にとれば、年間時間外労働時間が960時間に制限され、1人あたりの走行距離が短くなったため、長距離でモノを運ぶのが困難になった。また、物流会社や運送会社の売上げが減ったのはもちろん、1人1人のドライバーの収入が減少し、このために離職が進んで、業界は深刻な人手不足に陥っている。むろん輸送価格は上昇し、多くの人が経験していると思うが、配送サービスの利便性は下がり続けている。
いま記した状況は、国民生活にとってあきらかにマイナスである。それでも、そのマイナスが、自分の意志に反して労働を強いられていた人が解放された結果なら、私たちも甘んじて受け入れるしかない。しかし、制限を超えて働きたい人からも働く自由が奪われ、結果として、国民生活にマイナスが生じているなら、修正を検討するのは当然だろう。
労働時間の規制が生み出す死活問題
この問題を考えるに当たって、2つの論点を示したい。1つ目は、すでに物流や運送業界の例を挙げたが、労働時間の規制によって、私たちの生活を支える社会基盤がダメージを受けることについてである。
物流や運送業界の話を続ければ、ネット通販(EC)の拡大を背景に荷物の取扱量は増え続けているのに、労働時間の規制で実質的に賃金が減ったドライバーの離職は後を絶たない。インバウンドの増加で稼げる可能性が高まったタクシー業界への転職も目立つ。むろん新規の雇用は簡単ではない。
こうしてドライバーが不足すれば、物流コストは増加し、商品価格に転嫁される。その結果、食料品や日用品などの物価は上昇し、配達に遅延が生じやすくなれば、生鮮品などの品質にも影響が生じる。
重要な交通インフラであるバスへの影響も甚大だ。バスの運転手の多くは薄給で、超過勤務手当を足して辛うじて生計が立つという人も多かった。ところが、労働時間の規制で残業ができなくなり、安い給料がさらに安くなったから、離職が進み、新たななり手は見つからない。やはりタクシー業界への転職は少なくないという。
路線バスは昨年来、全国各地で減便や路線廃止が相次ぎ、唯一の公共交通が失われた地域も少なくない。たとえば、札幌市では2014年には1日に1万便以上運行していた路線バスが、昨年は約7,000便にまで減った。この12月にも北海道中央バスは、札幌圏で200便以上を減便するという。むろん札幌市は一例にすぎず、東京都営バスもこの10月に200便以上が減便された。
バスの減便により、事実上の「陸の孤島」となる地域が列島各地に増えている。とくに高齢者にとっては、心身の健康維持のために出かけることも、医者にかかることも困難になるなど、文字通りの死活問題である。
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