清原果耶、堀田真由、中谷美紀…女優たちの繊細な演技と芸術を堪能できる「ものをつくる」映画4選【晩秋の映画案内】

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宮崎あおい、20歳の卓越した演技

〇「ただ、君を愛してる」(2006年)

 大学の入学式の日、誠人(玉木宏)は個性的な静流(宮崎あおい)と出会い、やがて一緒に住むようになる。しかし、誠人は同級生のみゆき(黒木メイサ)に想いを寄せていた。写真が趣味の誠人をみて、静流もカメラを手にするようになる。ある日、静流は「キスするカップル」の写真を撮りたいと頼まれ森でキスを交わすが、その後、姿を消してしまう。数年後、ニューヨークで個展を開くという静流からの手紙が届く。訪れた誠人は、彼女が抱えていた秘密を知ることになる。

 大学の同級生として黒木メイサ、青木崇高、小出恵介らが出演している。「ルパン三世」(2014年)の峰不二子役が懐かしい黒木だが、美しいウェディング姿を見せている。青木は現在のワイルドなイメージとは違い、メガネをかけたまじめな学生役なのが面白い。

 それにしても宮崎あおいはうまい役者だ。初めてキスをする時にメガネを外すシーンがある。おかっぱ頭に赤いメガネをかけた幼いイメージだった静流が、これまでとは違う表情をみせハッとさせる。

 最大の見どころは、静流のニューヨークの個展を誠人が訪ねるところだ。なぜか会場に本人はいないが、静流のセルフポートレートが展示されている。レンズを見つめ、シャッターボタンを持つ立ち姿。ニューヨークに来て様々なことを経験した一人の女性が、見事に写されていて感動的だ。

 本作の前年に「NANA」でブレイクした宮崎は、この年にNHKの朝ドラ「純情きらり」の主役を射止める。そして2年後にはNHK大河ドラマ「篤姫」の主演と大きく飛躍した。この時まだ20歳。すでに琴線に触れるほどの演技を見せていたのだ。

 ところでタイトルに「ただ、」と読点をつけているのは、つけないと「ただ君を(多田君を)愛してる」と読めてしまうからだという。当時、映画会社の宣伝部長が多田さんという名前なので変更した、というのは本当だろうか。どなたか知っていたら教えていただきたい。

すべての職人達への讃歌

〇「繕い裁つ人」(2015年)

 市江(中谷美紀)は、亡き祖母が始めた「南洋裁店」の2代目店主だ。古びたミシンを使い、顧客一人ひとりのためにオーダーメイドの服を仕立てる職人スタイルを貫いていた。しかし、百貨店に勤める営業マン・藤井(三浦貴大)に、ブランド化を持ちかけられたことから、心に小さな変化が訪れる。

 アヴァンタイトルは、洋館に差し込む陽光の中で市江がミシンを踏むシーンである。ミシンの音が心地良いリズムを奏で、美しい生地やボタンなどが映されて絵画のように静謐だ。神戸を中心としたロケ作品だが、ファンタジー的な色合いが流れている。たとえば祖母の出棺時に、顧客たちが祖母の仕立てた洋服を着て見送るシーンや、年に一回、彼らが南洋裁店の服を着て集まり踊る「夜会」などだ。

 その夜会に乱入する女子高生に、杉咲花、永野芽郁、小野花梨。公開時はそれぞれ17歳、15歳、16歳と若い。杉咲は母親の服を市江に仕立て直してもらい、永野は亡くなった祖父の服を夜会で飾ってほしいと頼む役だ。彼女たちも、やがて南洋裁店の顧客になるのだろうか。

 中谷は、公開時にこんなコメントを残している。「日本中でコツコツともの作りを続けている、全ての職人さん達への讃歌だと思っています」と。彼女は2018年にドイツ人のビオラ奏者と結婚して、オーストリア・ウィーンと日本の二拠点で生活を送っているという。

 服を通じて人々の繋がりを描くこの作品。行きつけのオーダーメイドの店を持っていたら、どんなに幸せなことかと思う。店主が頑固な職人ならなおさらだろう。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部

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