清原果耶、堀田真由、中谷美紀…女優たちの繊細な演技と芸術を堪能できる「ものをつくる」映画4選【晩秋の映画案内】

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 秋が深くなると美術館や個展などを訪ねてみたくなるのはなぜだろうか。水墨画、漆塗り、写真、洋裁……。ものをつくる人々の姿に触れて、芸術を堪能できる映画は数多い。映画解説者の稲森浩介氏が解説する。

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若手女優No.1、清原果耶の水墨画

〇「線は、僕を描く」(2022年)

 水墨画といえば、雪舟、長谷川等伯、俵屋宗達などを思い浮かべる。その水墨画の世界を描く本作は、筆を走らせる迫力や創作の奥深さを伝えてくれる。展覧会があれば間違いなく行ってみたくなる作品だ。

 大学生の青山霜介(横浜流星)は家族を亡くし、深い喪失感を抱えていた。そんなある日、水墨画の巨匠・篠田湖山(三浦友和)と出会い、才能を見出されて内弟子となる。そこで湖山の孫娘の千瑛(清原果耶)たちと出会い、水墨画の世界に身を浸しながら自分自身を見つめ直していく。

 清原は、メディアからは「美しすぎる水墨画家」と称されているが、祖父からは評価されずに悩む画家を演じる。しかし、筆をとって紙に向かうその佇まいは、凛として清々しい。静かな感情表現が高く評価されている清原。間や視線、表情の機微で登場人物の心の動きを表現する「内なる演技」が特徴と言えよう。

 彼女が出演した「望み」(2020年)の堤幸彦監督は「怖いくらい巧い」と語り、「青春18×2 君へと続く道」(2024年)の藤井道人監督も「清原さんが15歳から一緒に映画を作らせてもらっているが、僕が想像したことを必ず超えてきてくれる」と、その突出した演技力を絶賛している。

 これまで清原は、俳優以外にファッションモデル、歌手、ダンサーなど多彩な活動で注目されてきた。10年後がこれほど楽しみな若手女優はいないかもしれない。

津軽塗の美しさとこだわり

〇「バカ塗りの娘」(2023年)

「バカ塗り」とは青森の伝統工芸「津軽塗」のことで、完成までに塗っては研ぐ工程を、何度もバカ丁寧に繰り返すことから来ている。

 弘前に住む美也子(堀田真由)は、スーパーで働きながら家業の津軽塗を手伝っている。父親の清史郎(小林薫)は寡黙な職人だが、母親(片岡礼子)は仕事ひとすじの夫に愛想を尽かして家を出てしまった。兄のユウ(坂東龍汰)は家業を継ぐことを嫌がり、美容師をしているが、ある日、恋人(宮田俊哉)を連れてきて、ロンドンに行って結婚すると宣言する。そして美也子は、津軽塗の道に進みたいことを父に言い出せないでいたが、漆を使ったある挑戦を決意する。そのことがきっかけで、バラバラになった家族の気持ちが少しずつ変わっていく。

 堀田にとって「自分に自信を持てないが、実は内に秘めた情熱を持っている」という美也子は、はまり役ではないだろうか。鶴岡慧子監督も「この役は堀田さん以外に考えられなかった」と明かしている。

 優雅で美しい津軽塗が何度も画面に出てきて、その優美さに魅入ってしまう。制作シーンのこだわりも見逃せない。堀田は「長い時間をかけて、何度も色を塗り重ねたりそぎ落としたり、自分の人生のようにもたとえられるなと思いました」と振り返る。

「バカ塗り」のバカという言葉は、実直に、そしてひたむきに向かい合う人々のことかもしれない。まさしく「ものづくり」への敬意を感じさせる作品といえよう。

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