「筋トレはしない」「フォーム変更にコーチ陣はノータッチ」 山本由伸が“自己流”を貫き続けた理由

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【前後編の後編/前編からの続き】

 球団初のワールドシリーズ2連覇に、MVPが花を添えた。11月1日(現地時間)に優勝を決めたドジャースで大車輪の活躍を見せた山本由伸(27)。二刀流復活の大谷翔平(31)と共にチームをけん引した渡米2年目の男は、いかにして「世界一の投手」に輝いたのか。

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 前編【「腰を心配しても『投げる』と言って譲らなかった」 恩師が明かす山本由伸の素顔 「今回連投を志願したと聞いて、由伸らしいな、と」】では、恩師や幼少期の山本をよく知る現役プロ野球選手が明かした、山本の素顔を紹介した。

 その後の活躍はご存知の通り。2021~23年は、3年連続で投手4冠を達成、併せて沢村賞・MVPも受賞と、NPBでは無敵の状態が続いてきたのである。

『山本由伸 常識を変える投球術』(新潮新書)の著書があるスポーツ・ノンフィクション作家の中島大輔氏が言う。

「躍進した最大の契機は、プロ1年目のオフの自主トレ期間に、投球フォームを大きく変えたことです。現在につながる、右肘を曲げず後ろにテイクバックする投法を身に付けたのです。けがのリスクもあって球団首脳からは不安の声が上がり、『アーム投げ』と批判もされました。ですが、そうした声を耳にしても山本投手は『自分はこれがいいと思うのでやっていきます』と押し切った。前年に大きな実績を残せなかった2年目で言うのは勇気が要ったでしょうが、そこに芯の強さがうかがえます」

 フォーム改変は、すでに師事していた柔道整復師で個人トレーナーを務める矢田修氏のアドバイスによるものだったという。

「矢田氏からフルモデルチェンジをするように言われた時は『ビビッときた』と振り返っていました。山本投手は筋トレをしないことでも知られていますが、これも矢田氏の教えです。投げることは全身運動であり、体の一部を鍛える筋トレをせず青竹をしならせるように、といった方向でトレーニングを行います。フォームを変えたことで、それまで悩まされてきた肘の張りも改善されたと言っていました」(同)

「教えられるばかりで、立場が逆転」

 19年からオリックスでパフォーマンスディレクターや巡回ヘッドコーチを務めてきた中垣征一郎氏は、

「由伸は自分のトレーニング法を確立しつつあり、そのやり方を貫きたいという明確な意思を感じました。私はそれ以前、日本ハムでトレーナーを務めており、ダルビッシュ有や大谷とは一緒に『ここをこうしよう』と長時間の話し合いを重ねてきたのですが、こと由伸に関してはそうした作業はなかった。彼が取り組んでいるトレーニングをはたから見て、『こういう方法もあるのか』と、成長を見守るばかりでした」

 その“独自メソッド”は技術のみならず心構えにも及んでいたといい、

「プロ入りして以降、山本からは教えられるばかりで、すっかり昔の立場が逆転してしまいました」

 そう明かすのは、都城高校野球部の2年先輩で、現在は同校の監督を務める田村勇人氏である。

「オリックスが春キャンプで宮崎に来る際などに会っていましたが、どんなに好成績を残しても『まだ伸ばせる』『もっといい球を投げられる』と、ストイックに自らを鼓舞しているとのことでした。また、先発ローテーション投手の心構えとして、次回登板に向けてのアプローチの仕方、その期間をどう過ごすかなど、まさに極意を聞かされたのです。それらの“金言”は、高校へ戻って部員に一字一句伝えています」

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