妊娠で“なんとなく結婚”して20年…妻が「息苦しい」と言い出した 婚約パーティーでの密かな裏切りも見過ごしたのに

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パーティを抜け出した妻

 根負けした遼子さんが彼のプロポーズを受け入れたのは妊娠5ヶ月になってから。彼女はそのまま退職し、ふたりは28歳のときに婚姻届を出した。すでに安定期に入っていたので親しい友人や同僚を呼んで簡単なパーティを開いた。

「パーティもお開きになるころ、遼子が『ちょっとお手洗い』と席を外したんですが、なかなか戻ってこない。新郎新婦がいないとまずいし、遼子が体調を崩したのかもしれないと心配になって探しに行きました」

 そこで彼が見たのは、物陰でキスをしている妻の姿だった。相手は例の上司である。カッと頭に血が上ったが、実さんは踏みこむことができなかった。代わりに音を立ててドアを開閉した。少し離れたところで待っていると、遼子さんがあたかもトイレから出てきたかのように現れた。

「具合が悪いのかと思って心配したよと言ったら、ごめんなさいって。泣いたような顔をしていました。遼子の肩越しに奥を見ると、例の上司とチラッと目が合いました。ぶん殴ってやろうかと一瞬、思ったんですが、なぜか『彼もつらいのかもしれない』と思っちゃったんですよね。もしかしたら彼、本当に遼子のことが好きだったけど離婚できない状況だったのではないか。そうだとすれば、奪ったのは僕のほうなんじゃないかと感じて。それだけ僕は彼女との関係に冷静だったんでしょうね」

 遼子さんは、見られていた可能性など考えもしなかったのか、あるいはそれでもかまわないと思ったのか、悪びれもせず堂々としていた。嫉妬とか恋愛感情とかを越えたところで、彼は遼子さんに心を寄せた。「こういう人なんだという納得感」と彼は言った。

結婚後も不倫は継続?それはないのではと実さん

 結婚生活は日々、淡々と進んでいったが、遼子さんがこだわっていたのは「自分が稼いでいないこと」だった。お腹が目立つようになっていたので新しい仕事も簡単には見つからない。とりあえず出産して育児が落ち着いてから仕事を見つければいいんじゃないと提案したのだが、彼女は納得しなかった。

「人に食べさせてもらうのは嫌だって。そこは妙に頑固でしたね。すぐに在宅でできる仕事を始めたと言っていました。無理しないようにしてほしかった」

 甘い新婚生活ではなかったが、べたついたところのない彼女に、実さんは徐々に惹かれていった。例の上司とのキスシーンを思い返すと、そこには自分たちにはない濃厚さがあったなとは感じたが、それは組み合わせの問題としてしかたがない。

「結婚後も彼女と上司の不倫が続いているのではないかという不安はありませんでした。彼女はおそらく気持ちを切り替えていると信じていたから。最後のキスだったんでしょう。彼女が一生、それを思い出として抱えていくなら、それは僕が入り込む余地のない感情ですからね」

 理屈としては正しいのだろうが、実さんは無理をしてきたのではないか。そんなふうに考えさせられた。

 ***

 不倫中の身であった遼子さんを妻に迎え、妊娠中でも上司とキスをする彼女を受け入れ、しかも上司に“同情”すら寄せる……。見ようによっては器の大きさを感じさせる実さんだが、なぜ今になって「息苦しい」と妻に言われるようになってしまったのか。【記事後編】で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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