演歌の大御所・鳥羽一郎が語る“ヒット曲の裏側” 「男の港」は一般発売されないご当地ソングだった、「カサブランカ・グッバイ」は“SMAP効果”で人気が急上昇
「海の匂いのお母さん」を歌うたびに「田舎のお袋の姿とダブる」
その鳥羽が歌う海の歌の代表といえば、1位の「兄弟船」、2位の「男の港」、そして5位の「海の匂いのお母さん」だろう。本作は、テレビ番組でも「兄弟船」に次いで歌われている印象があるが、実はさほど売れなかった2ndシングル「南十字星」のB面曲という点も興味深い。デビュー曲としては下位候補だった「兄弟船」、一般発売されていなかった「男の港」に続き、本作までも本命のシングルではなかったとは……!
「俺は、そういう歌ばっかりなんですよ(笑)。『海の匂いのお母さん』は、広島で牡蠣の養殖をしている“お母さん”のことを指します。もともと、広島のRCC中国放送で『演歌大学』というラジオ番組があり、バス運転手である田村和男さんが、この曲の原型を書かれています。これも『兄弟船』の時みたいに、“広島で発表会があるから歌ってこい”と言われて。まだデビュー前の頃に、生まれて初めて新幹線のグリーン車に乗ったのを思い出しますね~。
その後、シングルのB面に入れることになりましたが、コンサートなんかで歌っていると、田舎のお袋が苦労してきた姿とダブってくるんですよ。うちのお袋も、“海女さんは冬場、海に潜れないから”とアルバイトで牡蠣打ち(殻を割って身を取り出す作業)をやっていたんです。だから今は、お袋のことを想いながら歌っています」
‘05年の『紅白』では、鳥羽一郎と山川豊の兄弟が本作をデュエットするという形で共演。母親の海女姿を背景に映し出しつつ二人で熱唱するという演出も、視聴者の涙を誘った。
「弟とは当時、事務所もレコード会社も違ったし、紅白では俺が出て弟が出ない年や、その逆もありましたから、なかなか実現しなかったんでしょうね。本番で2コーラス歌うと決まった時、番組の提案では俺がメインで、弟のパートがほとんどなかったので、直談判して均等に歌うようにお願いしました。
『兄弟船』に『海の匂いのお母さん』……こうやって(Spotifyの)順位表を見ると、船村徹先生の作品が多いですが、やはり先生の作品を歌う時はいつでも身が引き締まる思いですよ。12位の『師匠(おやじ)』も船村先生のことなんですよね。そういえば、先生は男の歌手には厳しかったけど、女性には優しかったね(笑)」
このように、’80年代と’90年代に代表曲の多い鳥羽だが、サブスクでは4位に「北海の花」、6位に「戻れないんだよ」、8位に「一本道の唄」、そして10位に「されど人生」と、実は令和に入ってからリリースした’20年代の人気曲も出ている。
この中で最上位となった’22年のシングル「北海の花」は海を舞台としつつ、都会で働く男性が、北海に戻って花を咲かせようというドラマ性のある内容で、鳥羽がこれまで歌ってきた漁師や港を舞台とした歌とは視点が少し異なっている。
「自分では、どれも売れたという意識はあんまりないのですが、人気なんですね。『北海の花』は、(八代亜紀『舟唄』などを手がけた)浜圭介先生の歌が歌いたい、という思いが実現した1曲です。歌の主人公は、俺よりももっと若い青年のイメージがありますね。それこそ、彼の親父さんに『お前、荒波に出ていくけれど大丈夫か?』って言われたかもしれないな、なんて思いながら歌っています」
鳥羽と話していると、ジョークのレベルですら人の悪口を言わない、自分が出過ぎることを嫌う、目立たない存在にも光を当てようとするといったエピソードが多く、まるで高倉健の映画を観ているような感覚になった。まさに彼が、自身の最新作のタイトル「昭和のおとこ」そのままに生きているのだということを強く感じた。
最終回となるインタビュー第3弾では、その’25年の新曲「昭和のおとこ」や、サブスク解禁になった話題作についても語ってもらおう。
【INFORMATION】
◎ニューシングル『昭和のおとこ』発売中
<収録曲>
1. 昭和のおとこ
作詩:かず翼 / 作曲:徳久広司 / 編曲:南郷達也
2. おふくろ月夜
作詩:さくらちさと / 作曲:徳久広司 / 編曲:南郷達也
3. 昭和のおとこ(オリジナル・カラオケ)
4. おふくろ月夜(オリジナル・カラオケ)
◎岩手「クラウンミュージックフェスティバル」開催
・日程:2025年12月7日(日) 12:30~/16:30~(2回公演)
・会場:矢巾町・田園ホール
・料金:全席指定5,000円(税込)







