演歌の大御所・鳥羽一郎が語る“ヒット曲の裏側” 「男の港」は一般発売されないご当地ソングだった、「カサブランカ・グッバイ」は“SMAP効果”で人気が急上昇

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SMAPとの共演も功を奏し「カサブランカ・グッバイ」が人気に

 しかし、鳥羽にとってはあまりの異色作だったためか、レコード会社もノン・プロモーションのままでリリースした’96年、オリコンTOP100には一切入らない状態だった。

「当時のクイズ番組で“誰が歌っているでしょう?”と出題されるほど、知られていませんでした。この曲は、レコード会社のディレクターから“演歌独特の節回しを取るように”と細かく直されたので、ソフトに歌ったんです。だから、誰もまさか鳥羽一郎が歌っているとは思わなかったんだろうね(笑)」

 ところが、しばらくすると、“カサブランカを歌った歌”として徐々にラジオや有線放送でリクエストが増えていき、有線放送では’96年度66位と「兄弟船」以来のヒットを記録。同年のNHK『紅白歌合戦』でも、鳥羽は本作を歌唱することになった。

 その本番当日は、SMAPのメンバーが歌のイメージに合わせて中折れハットにコートをまとい、鳥羽が歌う後ろで立ち振る舞うという演出も話題になった。特に、木村拓哉が曲の間奏でハットを脱いでダンディーに一礼した瞬間には歓声が響き、大いに盛り上がった。

「実際、この歌がヒットしたのは、SMAPのみんなが出てくれたことが大きいでしょうね。彼らにはとても感謝しています」

 SMAP効果もあってか、年明けには有線放送とCDでランキングが急上昇。有線では年間21位、CDは初めてTOP100入りし、『紅白』では2年連続で歌うほど人気が定着した。しかし、これだけ「カサブランカ・グッバイ」がヒットしたならば、この洒落たポップス路線を続けようという気はなかったのだろうか。エンタメ業界なら二番煎じ、三番煎じでヒットを量産するのが通則と思われるが、

「それを、やらないのがいいんですよ(笑)。あのくらいヒットしたら普通はやりたがると思うけれど、これは内館牧子さんとしても、映画『カサブランカ』あるいは、それをモチーフにした沢田研二さんの『カサブランカ・ダンディ』のイメージで作ってくれたものだと思うので、1曲あれば十分です」

 では、これとは対照的に海の歌が圧倒的に多いのは、果たして鳥羽のリクエストなのかと尋ねると、

「いえいえ、単純に作家のみなさんが鳥羽一郎に対して、そういう海のイメージで曲を作ってくださるんじゃないかな。逆に、ラブソングはほとんど来ないね(笑)」

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