未経験の主婦に「原画」の依頼が舞い込む異常事態…日本アニメが大人気のウラで「制作現場がもはやパンク状態」「若手を育成するヒマもない」

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リモートでは新人の教育が難しい

 漫画とアニメは一緒くたに扱われることがよくある。思えば、かつての子ども向けのアニメには、“テレビまんが”などと呼ばれていたものがあった。止まっているか動いているかの違いはあるものの、漫画を原作とするアニメも多いし、多くの人には漫画もアニメも同じに見えるかもしれない。

 しかし、漫画は出版社の編集者と漫画家がいれば作れるが、アニメは絵を描くスタッフだけでも多数のアニメーターを必要とする、いわばチームプレイである。「大谷翔平のような打者が一人いるだけではその人にばかり負担がかかり、良い作品は生み出せない」「全体の底上げが必要」と話すのは、ベテランアニメーターのK氏である。

「かつては、新人はスタジオの先輩アニメーターから、アニメづくりのいろはや、業界のルール、絵の描き方などを手取り足取り教わることができる環境がありました。ところが、コロナ禍を機に仕事がリモート中心になってしまい、新人が学びを得る機会が激減してしまったのです。

 そのうえ、どこのスタジオもスケジュールがキツキツなせいで、新人が描いた絵に修正を出している余裕がなかったりします。結果、まずい絵にもOKが出てしまい、作画監督などを務めるベテランアニメーターが修正を押し付けられるのです。新人は絵の指導を受けることもできず、誤ったルールを正してもらえないまま、仕事を続けてしまうんですよ」

技術力の高いアニメーターは引く手あまただが

 アニメバブルに伴い、技術力が高く、“神作画”などとして知られるアニメ会社は数年先までスケジュールが埋まっているといわれる。同時に、実力のあるアニメーターのスケジュールを確保する動きも起こっている。前出のA氏も引く手あまたな一人であり、「1年先まで予定は埋まっているし、新規の仕事はまったく受けられないほど忙しい」と話す。

「アニメーターは、儲からない仕事の代名詞のように言われます。しかし、技術力の高いアニメーターには高額な収入を得ている人はいますし、正直、僕もそれなりに高給取りかもしれません。ただ、それは膨大な量の仕事が降ってきてしまうため。仕事量に対し、割が合いませんよ。実際、お金を使うだけの時間がないほど多忙ですから……」

 A氏が多忙になっているのも、アニメの制作本数が多くなりすぎているうえ、人材が育っておらず、「完全に現場がパンクしている」ためなのだという。アニメバブルを素直に喜べないのはそのためであり、業界の未来を不安視するアニメーターは少なくない。そのうえ、新たな問題が生じているとA氏は打ち明ける。

「人材不足や人件費の高騰で資金が集まらず、水面下で放送延期、もしくは制作中止になっているアニメがいくつもあるようです。クラウドファンディングで資金を集めたアニメが、制作頓挫しそうになっている状況も起こっていると聞きます。こうした事例は昔からあったのですが、昨今は人件費や物価の高騰が凄まじく、当初の想定以上にお金がかかるようになったためでしょう」

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