未経験の主婦に「原画」の依頼が舞い込む異常事態…日本アニメが大人気のウラで「制作現場がもはやパンク状態」「若手を育成するヒマもない」

国内 社会

  • ブックマーク

 今や、日本のアニメは重要な輸出品目として熱視線を浴びている。10月30日に日本動画協会が発表したデータによると、2024年の日本のアニメ市場は前年比約15%増の3兆8407億円で、過去最大になったという。こうした背景を受け、政府の関係者もアニメや漫画などのコンテンツ産業について発言する機会が増えているようだ。

 前・石破茂政権で官房長官を務めた林芳正総務大臣は、先の総裁選に出馬した際、アニメや漫画の輸出を促進すべくコンテンツ庁を設置するべきだと明言した。また、高市早苗内閣に初入閣した小野田紀美氏もアニメ好きを明言している。こうした影響もあって、今後は政府によってアニメ業界の活性化が進むのでは……と思いきや、冷めた目で見るアニメーターは少なくないようである。【文・取材=山内貴範】(全2回のうち第1回)

技術力が低い素人にも仕事が舞い込む

 というのも、日本のアニメが世界に評価される一方で、制作に従事するアニメーターの育成が依然として進んでいないためである。これは長年の課題となっているが、改善の兆しが見えない。さらに、アニメの制作本数の増加に伴う人材不足で、技術が伴っていないアニメーターが動員された結果、深刻な“作画崩壊”が起こる事例が増えているという。

 筆者が取材した主婦のR氏は、コロナ騒動の混乱期に“副業”としてアニメーターの仕事を開始した。SNSに載せていたイラストがきっかけで声がかかり、通常は新人が最初に勉強する“動画”の仕事を経験しないまま、いきなり“原画”の仕事を始めた。本人も自身が未熟だと自覚しているというが、それでも仕事がちょくちょく舞い込むそうである。

 R氏はアニメの専門学校に通ったり、先輩アニメーターに教わった経験は一度もない。「あくまでも趣味で絵を描いている程度だった」「少しでも生活費の足しになればと、気軽に始めた」と話し、現在もアニメがどのように制作されているのか「よくわからない」と話す。アニメの素人の筆者が見ても線がガタガタで、お世辞にも絵が上手いとは言えない。しかし、そんな人が即戦力になってしまうほど、業界は人手が不足しているようだ。

ベテランが新人の尻拭いをする

 いい意味で捉えれば、現在のアニメ業界は、やる気のある新人にはチャンスがあるといえるのかもしれない。その反面、技術力の高いベテランが、素人レベルのアニメーターの尻拭いをさせられるという事態に陥っている。アニメーターが描いた絵を、放映できるレベルに修正する“作画監督”を手掛けているアニメーター・A氏がこう話す。

「信じられないくらい下手な原画が、僕のもとにたくさん来るようになりました。アニメの絵の描き方やルールを教わらないまま仕事をしている人が多く、僕がゼロからすべて描いたほうが早いという有様。一昔前なら、僕が直すのはキャラの“目”とか“輪郭”程度でしたが、体まですべて描き直す必要があるほど問題のある絵を描く人が多いのです」

 A氏は、「同じ悩みを抱えている同業者は多いのではないでしょうか」と話したが、実際、筆者が話を聞いた何人ものアニメーターが同様の発言をしていたのが印象的だった。「結果的に“全没”になってしまう絵を描いている人にも報酬が支払われているわけで、無駄なお金が投じられている」という、手厳しい指摘をする人もいた。

次ページ:リモートでは新人の教育が難しい

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。