「使うぐらいなら死ぬ」と話す映画監督も… “AI女優“がハリウッドを席巻する日は来ない3つの理由

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観客が求めているのは「ハリソン・フォードの若返り」ではない?

 さらに、観客。彼らもまた、AIのファンではないのではないか。

 ティリー・ノーウッドがメディアを騒がすのとほぼ時を同じくして、アメリカでは50周年を記念し、「ジョーズ」が劇場再上映され、1200万ドルと結構な額の興行収入となった。また、先週末からは、40周年にあたる「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が、劇場で再公開され、トップ5に食い込んでいる。

 これらの映画が作られた頃は、今のようなテクノロジーはなかった。ロサンゼルスのアカデミー映画博物館には、「ジョーズ」に使われたサメのモデルが展示されているが、完全にアナログで、むしろ愛嬌がある。だが、あの映画で見たサメは怖かった。それだけストーリーの語り方がうまかったのだ。だから名作としていつまでも歴史に残り、配信で気軽に見られる時代になっても、また映画館で観たいと思うのである。サメがいかにリアルかどうかの問題ではない。

 それに、たっぷりとお金をかけたデジタル技術でハリソン・フォードを若返らせた2023年の「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」は、赤字に終わっている。

 若きインディを再現させることを、観客はそこまで望んでいなかったということ。1989年の「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」ではリヴァー・フェニックスを青年時代のインディに起用し、好評だったのに、今回は若い俳優がもらえたはずのその役を、テクノロジーに与えた。その結果は、誰にとっても幸せではなかった。

 そんなことを考え合わせると、AIがクリエイティブ面でハリウッドの中心的な役割を担う日は、すぐには来ないと思われる。もちろん、恐怖はすぐそこにある。テクノロジーにどこまでできるのかを見せつけられるたびに、不安は高まる。

 だが、それだけに、人は責任を持ってつきあい方を決めていくのではないか。少なくとも、そうであると信じたい。そうでなくなってしまったら、ハリウッドはもはやハリウッドでなくなるのだから。

猿渡由紀(さるわたり・ゆき)
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

デイリー新潮編集部

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