“エビジョンイル”と呼ばれた海老沢勝二氏 63歳でNHK会長に上り詰めた男の生涯【追悼】

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63歳で会長に

 89年、企業の役員に相当する理事に就任。会長の椅子も視野に入るが、当時の島桂次会長に危険視され、NHKエンタープライズの社長に追いやられた。

「島さんも政治畑で宏池会。海老沢さんは経世会。NHKの政治部記者は、記事の内容より自民党の大物にどれだけ深く食い込んでいるかで評価される。局内の抗争は熾烈(しれつ)でした」(小林氏)

 NHK本体に復帰を果たし、94年、川口幹夫会長の下で副会長。3年後、63歳で会長に上り詰めた。

 ワンマンの島、エンマン(円満)の川口、タフマンの海老沢と評されたとか。

「趣味はNHK」と公言。就寝時もラジオをつけっぱなしにしていたのは一朝事あらば駆け付けるため。攻めに強く、生え抜きの会長として史上初の3期目に入った際に足をすくわれた。

「受信料という公金の不正利用は深刻な問題なのに、ニュースや番組が偏向して世論を誘導したなどの致命的な問題ではないと考え、世間の感覚とずれていた。自分が本質的と捉えるテーマに繊細でも、それ以外がアバウトなのは師の橋本氏と似ている」(小林氏)

「政治家然とした態度」

 政治との距離が問われると“NHKは国民のもので、その代表である国会議員と付き合うのは当然”と反論。

「経営や番組に政治家が口出しするのを抑えるのが最大の役割と考えていた。経営者なのに政治家然とした態度だった」(小林氏)

 05年、任期途中で辞任。退任後、取材に応じ、マスコミに悪者に仕立て上げられたと振り返っている。

 普段は移動に電車を使い生活態度は慎ましい。妻は佐藤元首相の縁戚だが閏閥を誇ることはなかった。次男がNHKに入局している。

 10月19日、誤嚥性肺炎のため91歳で逝去。

 NHK会長は08年以来、外部から招聘(しょうへい)された人物の就任が続いている。

週刊新潮 2025年11月6日号掲載

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