彼女に「会社を辞める」と告げたらフラれた…誰もが気軽に“退職”する時代に「氷河期世代」のホロ苦い退職エピソードを振り返ってみたい

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 現在、「退職代行サービス」をめぐるトラブルが話題になっているが、それだけ退職が普通のことになったということだろう。中高年にしてみれば人生の一大事だと思いがちだが、若年層にとっては「他人にそこは任せればいいッス♪」みたいな軽いノリなのである。かくいう私は27歳の時、新卒から4年間勤めた会社を辞めた。当時付き合っていた女性から言われたことを、昨今の「お手軽退職」について考えてみたい。【取材・文=中川淳一郎】

今よりもヘンな人になるじゃん

 そもそも、気軽に転職できることはいいことである、ということは前提にする。しかし、それは売り手市場だからこそ言えることだ。今の時代、若者は貴重な存在で、就職・退職・転職にあっても強い立場にある。だが、2000年秋、私が会社を辞めることを伝えた時の交際相手の反応はすさまじいものだった。

 2000年卒は就職氷河期のなかでも最悪とされた年で、その翌年である2001年卒の彼女も就職活動では苦労した。だが、無事に内定は得た。私は会社員4年目の27歳で、彼女は大学4年生の22歳。11月中旬に私は退職を部長に伝えた。部長はそのことを局長に伝え、以後、同氏と私は週に1回面談をすることになった。基本的には雑談を局長室でするのだが、終盤になると「で、お前は『会社を辞めることを辞めるか』?」となる。

 要するに「お前は辞めるんじゃねぇよ」ということだが、私は「いや、オレは辞めます!」と言うが局長はガハハハハと笑い「まぁいいや、来週もオレの部屋に来い」、と豪快に言い放つのだった。

 局長とこのように毎週会っていたのだが、その最中さ中に彼女の誕生日があったため、神保町のレストランでディナーをした。序盤は楽しく会話をしていたのだが、私が「あのさ、オレ、会社辞めることにしたんだ」と言ったら彼女は固まった。そして黙った。せいぜい5秒程度だと思うのだが、私にとっては1分ぐらいに感じられた。そこで彼女が声を振り絞って言ったのは以下だった。

「なんで! 会社辞めたら今よりもヘンな人になるじゃん!」

 ここから先は沈鬱な空気となり、もはや彼女の誕生日を祝うどころではなくなり、その15分後ぐらいに互いのビールを飲み終えた時点で会計をした。その後、彼女から一切連絡はなくなり、こちらから電話をしても出てくれなかった。

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