「人里で母グマを駆除すると、子グマが“集落依存型”に…」 クマによる人身事故大量発生の理由とは

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【全2回(前編/後編)の前編】

 10月に入ってから連日報じられている、クマによる人身被害。痛ましいことに、すでに死亡者は過去最多数を記録し、桃源郷だったはずの名湯の地でも死亡事故が発生してしまった。もはや誰にも“対岸の火事”とは呼べない、クマの驚愕(きょうがく)すべき実態に迫る。

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 立て続けに報じられるクマのニュースの中でも、岩手県北上市の温泉旅館で起きた事故にショックを受けた方は多いだろう。「瀬美温泉」の従業員・笹崎勝己さん(60)が露天風呂の清掃中に行方不明になったのは10月16日のことだった。

「市役所から連絡が来たのは午前11時半。私が招集をかけて6名の猟師が現場に急行しました」

 そう振り返るのは、北上市猟友会の鶴山博会長である。

「警察への通報では、露天風呂に血痕と小さな肉片があったということでした。私たちが現場に着くとすでに警察がいて、鑑識が現場検証していた。到着してすぐに“獣の臭い”がすると感じました。他のどの動物とも異なる、クマ独特の臭いです」(同)

「前後に異様に長く伸びた顔」

 露天風呂からわずか5メートルほど先には、コンクリートの護岸を挟んで川が流れている。

「その日は激しい雨が降っていたのですが、川へ至るその護岸にも血痕が残っていた。格闘の跡が見られなかったため、作業中の男性をクマが不意打ちで襲撃し、柵をまたいで露天風呂の外へ引きずっていったのだろうというのが、現場で挙がっていた話でした」(鶴山会長)

 臭いのする方角や血痕の状態から、クマは川を越えて、まだ近くにいるはずだと見当をつけた。川の先には森が広がっている。

「ただ、激しい雨と準備不足で、その日の捜索は手がかりを探す程度にとどまり、警察からは翌朝に捜索を改めて始める旨を言い渡されました」(同)

 翌17日、集まった猟師16名を中心に捜索を再開。まもなく、猟師の一人がクマを発見した。

「川の先は岩肌がむき出しの急斜面になっています。その斜面に男性の遺体があり、自分の捕えた獲物を大事に見張っているかのように、クマがすぐ近くをのっそのっそと歩いていた。体長は140センチ、体重は80キロ程度の黒い大人のツキノワグマでした」(同)

 これは標準よりも大きい部類に入るという。

「前後に異様に長く伸びた顔が、不気味でした。猟師の存在に気付いたクマは、逃げるように遺体から離れて急斜面を登り始めた。30~40メートル離れたところから撃たれたライフル弾は、クマの首近くに命中しました。クマは急斜面を20メートルほどゴロゴロッと転がり落ちて、ちょうどご遺体に覆いかぶさるような格好で静止したのです」(同)

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