「人里で母グマを駆除すると、子グマが“集落依存型”に…」 クマによる人身事故大量発生の理由とは

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クマが“集落依存型”になる理由

 通常、エサを探すための行動圏はオスで40平方キロ、メスで20平方キロ。しかし、エサ不足の場合にはその5倍以上に広がるという。こうした動きは昨日今日始まったものではない。

「30~40年ほど前まで、クマは山奥に行かなければ見られない動物でしたが、近年ではその分布が人里に広がっています。環境省の調査では、1978年と比べると現在は2倍になっているのです。80年代のクマによる人身被害者数は年に平均12人でした。これが徐々に増加し、2000年代になると年平均80~90人以上となっています」(大井氏)

 とはいえ、山奥から市街地に一足で躍り出たわけではない。山と人里の緩衝地帯、すなわち里山に生息する段階がある。

「人が里山の木材資源を利用しなくなり、樹木が切られずに成長した結果、クマの隠れ場所となっています。同時に耕作放棄地も増加し、クマのエサになるような植物が増えたことで、クマが生息できる場所が広がったのです」(同)

 里山での暮らしに慣れたクマの生態について、日本ツキノワグマ研究所の米田一彦代表が解説する。

「例えば人里で母グマを駆除すると、子グマは母を見失った地点で母を待ち続けます。しかし、いつまでたっても帰ってこない。すると、自活を始めなければなりません。こうしたクマは、筋金入りの“集落依存型”になり、民家のコメや残飯などを日常的に食べるようになる。そのクマにとっては、そうやってエサを取るのが当たり前で、生きるために必要なことなのです」

 ここまでくると、市街地などは目と鼻の先だ。それにしても、山奥から里山、そして市街地へと、はたしてどのように移動しているのだろうか。

 後編【「クマが世田谷区に出没する可能性も」 すでに青梅や八王子で目撃情報が… 「移動距離は1日10キロ」】では、いずれクマが市街地である東京・世田谷区などに進出してくる可能性について報じる。

週刊新潮 2025年10月30日号掲載

特集「地方の市街地で連日、人間が襲われている…ツキノワグマが東京 世田谷に出没する日」より

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