「人里で母グマを駆除すると、子グマが“集落依存型”に…」 クマによる人身事故大量発生の理由とは

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9名が犠牲に

 激しく損壊されていた遺体は警察が引き取り、クマは鶴山会長の作業場で解体することになった。

「クマの胃の内容物からは、被害者男性のものと見られる人体の一部が確認されました」(鶴山会長)

 驚くべき事実も明らかになっている。岩手大学農学部の山内貴義准教授によれば、

「その約1週間前に、瀬美温泉から2キロほど離れた山中でキノコ狩りをしていた男性を殺害したクマと、高い確率で同じ個体であることが分かっています」

 瀬美温泉でクマの犠牲となった笹崎さんは、長らくプロレス界でレフェリーとして活躍した屈強な体の持ち主。今春から家族と温泉敷地内のアパートに住み込み、新たな人生を歩み始めたばかりだった。

 クマによる死亡事故は各地で多発している。今年度は9名(10月22日時点)が犠牲になっており、過去最多だった2023年度の6名をすでに超えているのだ。

 さらにもう一つ、今秋の現象で注目すべき点がある。北海道のヒグマも本州のツキノワグマも、共に市街地での出没が頻発しているのだ。

 長野県では長野市内の善光寺周辺で目撃情報が相次ぎ、北海道では札幌市内の老人ホームの近くに出没。宮城県では仙台駅から約3キロの河川敷で5頭ものクマが目撃されているし、群馬県ではスーパーマーケットに侵入している。駐車場で客にケガを負わせたのちに、店内をぐるりと一周し、魚の陳列ケースに覆いかぶさったりしていたという。

ドングリ、ブナの凶作

 クマとの遭遇は、もはや人里離れた田舎に限った出来事ではないのだ。一体、クマの世界で何が起こっているのだろうか。

 クマの生態に詳しい石川県立大学の大井徹特任教授が言う。

「今年は長野から北海道まで、クマの秋のエサであるドングリやブナの実が凶作です。山のなかにエサがないため、エサを求めて各地の人里に出没していると考えられます」

 先の山内准教授が後を継ぐ。

「私は調査でよく山に入りますが、パッと見ただけで今年はほとんどブナの実が見つからないことが確認できます。ドングリやブナの実の量は、木そのもののサイクルに左右される。2年前は大凶作で昨年は豊作、今年は大凶作となっており、クマの出没頭数とも明確な相関関係が見られます」

 もとよりクマの“嗜好”は順応性に富んでいる。

「クマが食べるものの9割以上が植物なのですが、化石や遺伝子などの分析から、トラやライオンと同じ食肉目に分類されています。長い進化の過程で、動物のように逃げることもなく、苦労をせずに大量に摂取できる植物を主食にするようにシフトしていったのです。つまり雑食性で、食べるものを柔軟に変化させることができます」(大井氏)

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