毒舌芸人が出版ラッシュ 鬼越トマホーク、しんいち、井口…嫌われ者が「ビジネス書」界を席巻しているワケ

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本音を堂々と語る

 鬼越トマホーク、お見送り芸人しんいち、ウエストランド・井口浩之といった面々は、何かと悪態をつく毒舌芸人として知られている。しかし、なぜか最近になって、そんな毒舌芸人たちが生き方を説くビジネス書的な書籍を次々に出版していて、話題になっている。【ラリー遠田/お笑い評論家】

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 9月には鬼越トマホークの著書『鬼越トマホークの弱者のビジネス喧嘩術』(太田出版)が出版された。2人の喧嘩を止めようとした人に勢い任せに毒を吐く「喧嘩芸」を売りにしている彼らが、生き馬の目を抜くお笑い界で生き残るための「弱者の戦術」を説いている。

 10月29日にはお見送り芸人しんいちの著書『嫌われ者って金になる!』(徳間書店)が出版される。人の悪口を言いまくって炎上を繰り返している彼が、嫌われても強く生きるためのメンタル術や人心掌握術を語っている。

 12月18日には井口の著書『悪口を悪く言うな!』(Gakken)が出版される。日常での違和感や気付きを表現した「愚痴」をテーマにした一冊だという。バラエティ番組では人に噛みついたり毒づいたりすることが多く、悪役のイメージがある彼らが、なぜ続々とビジネス系の本を出しているのだろうか。

 一見すると、「毒舌」と「ビジネス」は相性が悪いような感じがする。毒舌とは、他人の欠点をあげつらって、時には人を不快にさせるものだ。芸人が人を笑わせるためにあえてその武器を使うことはできても、実際のビジネスの現場にそのまま応用できるわけではない。この2つが交わることは本来ありえないように思われる。だが、そうではない。

 毒舌芸人たちの本が続々と出される背景には、「本音を堂々と語ること」に対する人々の潜在的な欲求がある。現代社会は建前に満ちている。会社では上司や取引先に気を使い、SNSでは炎上を恐れて言葉を選び、人間関係の中でも「無難であること」が唯一の選択肢のようになってしまった。

 そんな中で、テレビやラジオで歯に衣着せぬ発言をする毒舌芸人の姿に視聴者はカタルシスを感じている。彼らは、誰もが心の中で思っていながら口に出せないことを堂々と代弁してくれる頼もしい存在なのだ。

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