捜査員に囲まれた“北朝鮮スパイ”が「バッグの中にあるタバコを吸いたい」と懇願した理由…ラジオを通じて「暗号指令」が飛び交った「北朝鮮」特殊工作の実態
スパイの目的
〈(当時の北朝鮮スパイの)任務は、日・米・韓三国の関係、とくに、わが国の韓国および北朝鮮政策に関する情報、産業経済、科学技術に関する情報、在日米軍の動きを知るための基地関係情報、自衛隊の編成と装備、士気に関する情報を収集することが主な内容となっている。韓国に向けての行動としては、駐日大使館や「民団」の動きの調査や在日朝鮮人を利用した「民団」等への働きかけ、韓国内の情報収集、韓国への革命的分子の送り込みなどの対韓工作を主な内容としている〉(警察庁警備局の資料から)
Aが付与された任務の3にもあるように、北朝鮮スパイの中には日本を中継して韓国へ潜入したり、韓国地下党員を養成するため、その要員を日本から北朝鮮へ送り込んだりすることもあった。警視庁公安部に逮捕された北朝鮮スパイBは、こう供述している。
「私の目的の第一は、日本と韓国の軍事情報収集。第二は、日本にいる韓国人四人を一人前の工作員に養成、このうち二人を日本国内の工作員として使い、ほかの二人を韓国に帰国させてスパイ活動をさせる。第三は、副次的な任務で、日本の政治、経済に関する文献を買い集めて本国に送ることだった」(同)
Aの事件でも紹介したように、彼らスパイが本国から指示を受けたラジオ番組は、北朝鮮の平壌放送。当時のわが国ではどこでも聞くことができた。午前零時になると「アリラン」のメロディーが流れ、やがて「平壌にいるXさんが、ソウルにいる息子のWさんに贈る手紙はこのあと、零時10分ごろに放送します」とのアナウンスが流れ、時間がくると再び「アリラン」が流れ、数字を読み始める。
〈わが国に潜入した「北朝鮮スパイ」にとって大きな問題は、いかにして自分の身分が他人にわからず、しかも与えられた任務をスムーズに果すかということである。そのため外国人登録証明書を手に入れ、朝鮮人としての身分の合法性を確保するケースもあれば、わが国の女性と結婚して日本人になりすますというケースも少なくない〉(同)
昭和42年11月に検挙されたスパイCは、外務省事務官を通じて日ソ首脳会談の内容など、重要な外交機密を北朝鮮に流していたことが公判で明らかにされている。
〈スパイはその求める情報や機密の提供者を獲得するため、虎視眈々としてチャンスを狙い、あらゆる手練手管を使って触手を伸ばそうとしているのである。なかでも、その情報や機密に詳しい中央、地方の公務員や重要基幹産業の従業員などにその触手が向けられている〉(同)
ではこうしたスパイたちに、日本警察はどう対処していったのか――。
【第2回は「『日本では牛馬のごとく重労働が課され、国民に自由など皆無』…日本に潜入した北朝鮮スパイが“本国の教え”を疑って自首することも 『日本警察VS北朝鮮』昭和の諜報戦」知られざる公安警察VS北朝鮮スパイ諜報戦の全貌】




