ここ数年で「アトピー治療薬」が飛躍的な進化を遂げるも…多くの患者が恩恵を受けられない「驚きの理由」 深刻な“専門医”不足が招く問題の根源とは

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「診療報酬制度」は薬の進化に追いついていない

 ある病院関係者はこう明かす。

「アトピー性皮膚炎の患者を診察して、ステロイドを処方した時の診療報酬は下がる一方で、回転重視の診察にならざるを得ません。医師が新薬のことを知っていても、時間をかけて患者に説明し、紹介状を書いても収入にならず、“そんな余裕はない”という姿勢の医師を何人も見てきました。結果として、患者が数カ月に1回来た時、皮膚も診ずにステロイドを処方するだけなのです。患者が勉強して新薬を希望した時、“ウチではできません”と一蹴した医師もいました」

 診療ガイドライン(24年版)では、〈ガイドラインに沿って1カ月程度治療しても皮疹の改善がみられない場合は、専門の医師または施設への紹介を考慮するべきである〉と書かれている。

 しかし現実は、改善がみられなくてもステロイド薬の処方を延々と続けている医師が少なくない可能性があるのだ。

 ちなみに最初に承認されたデュピルマブ(注射薬)は処方が増えている。

「通常、1回目と2回目は病院で指導の下に注射して、3回目以降は自宅で自ら注射します。その診療には、自己注射指導管理料と導入初期加算料がつくようになったため、処方が増えた、との見方があります。新薬を処方する際は、新薬が効かない患者がいることも含め、患者の状態を経過観察するなど高度な指導が必要となる場合もあります。現在の診療報酬制度は、その薬の進化に追いついていない、という問題はあります」(製薬会社社員)

患者が“塩漬け”に

 ただ、新薬処方の条件を満たせないクリニックでは、新薬処方の点数加算はあまり意味がない。クリニックが患者を専門医に紹介した時にインセンティブがつけば紹介は進む、という指摘はある。
 
 しかし、それよりも先に、儲からないという理由で、患者を“塩漬け”にしている医師の姿勢が問われるべきだろう。

 前述とは別の40代の女性患者はこう話す。

「私も子供の頃から重症患者でしたが、ステロイド薬が怖くて、薄く塗り、少し良くなれば止めてしまい、また痒くなるという悪循環を繰り返してきました。けれど20代前半の時に出会った医師に、ステロイド薬にはランクがあり、塗る場合も適量があることを初めて教えられ、その通りにすると症状が改善しました。子供の頃から数えて10人以上の医師に診てもらいましたが、それまで誰も教えてくれなかったのです」

 厚労省にせよ、製薬会社にせよ、医師を批判することは難しく、この問題は放置されている。

坂田拓也(さかた・たくや)
大分市出身。明大法卒。1992年「サンパウロ新聞」(サンパウロ)、97年~2004年「財界展望」編集記者、08年~18年「週刊文春」記者、現在フリー。著書『国税OBだけが知っている失敗しない相続』(文春新書)、取材・構成『日本人の給料』(宝島社新書)ほか。

デイリー新潮編集部

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