「一生、漫才頼むで」…「オール巨人」が“目標”に掲げるレジェンド漫才師とは「普通のおっちゃんなのに、しゃべりだしたら物凄くおもしろい」
夕刊紙・日刊ゲンダイで数多くのインタビュー記事を執筆・担当し、現在も同紙で記事を手がけているコラムニストの峯田淳さん。これまでの取材データから、俳優、歌手、タレント、芸人……第一線で活躍する有名人たちの“心の支え”になっている言葉、運命を変えた人との出会いを振り返る「人生を変えた『あの人』のひと言」。第39回は、漫才師のオール巨人さん。相方の阪神さんとのコンビで50年、第一線で活躍してきました。コンテストの審査員で厳しい意見を言う姿が思い出されますが、そんな巨人さんの知られざる顔を……。
【写真を見る】オール巨人とコンビを組む予定だったレジェンド漫才師
吉本の風紀委員長
漫才コンテストは「M-1グランプリ」を始め、テレビで花盛りだが、見ていていつも感じるのは出演者に点数をつける審査員が適切なのか、ということ。この人に言われてもなぁ……と思うことがしばしばある。
そんな中、この人の採点なら信用できると筆者が思っていたのは漫才コンビ、オール阪神・巨人の巨人師匠だ。巨人は73歳、阪神は5歳下の68歳だが、コンビは阪神が高校を出るのを待って結成された。吉本入りの同期は島田紳助(69)や明石家さんま(70)。超売れっ子らの間で揉まれ、関西の大御所として今年で結成50周年を迎えた。
巨人は頭が切れるし、分析力はピカ一、吉本興業の“風紀委員長”として、芸への姿勢も厳しい。昨今テレビで目にする審査員とは、蓄積も目利きもレベルが違い過ぎる。
しかし、巨人は2021年でM-1の審査員を降りた。
「アニメのネタ、ゲームのネタとかでわからんワードが出てきて、わかった顔して審査すんのがイヤやから」
と、その理由を語っている。確かにゲームなどをやらない世代にはチンプンカンプンなネタが最近は増えている。しかし、漫才の基本に立ち返れば、50年間も大先輩や売れっ子を見続け、考え抜き、芸を磨いてきた大ベテランの意見は拝聴に値する。コンテストにこういう審査員が一人いてもいい。
オール阪神・巨人は、身長差が23センチあるデコボココンビながら、漫才のスタイルはオーソドックスで、王道のしゃべくり漫才だ。
自著『漫才論 僕が出会った素晴しき芸人たち』(ヨシモトブックス)では、横山やすし・西川きよしについてこう分析している。
〈意外かもしれませんが、やすし師匠が折れていらっしゃったんじゃないでしょうか〉
〈やすし師匠は舞台では自由奔放で約束を守らず勝手に動き回るように思われていますが、実はきよし師匠のほうが自由にされます〉
巨人にお願いして始めた連載では、改めてやっさんに関して、こう語っている。
〈破天荒な部分は結構、作ってはったと思いますよ。本当は気の小さな繊細な方やったと思う」
紳助とはコンビを組む話もあったくらいで、裸の付き合いをしていた。紳助は研究熱心で戦略をたてて漫才をやっていたという。
「仁鶴師匠はこう、やすきよさんはここがすごい、巨人・阪神はここがウケてるけどここが弱い、なんて分析やネタやらをぎっしり書き込んだノートが何冊もあって、部屋の壁には自分で作った折れ線グラフや表が一面に張ってあった」
阪神は巨人から「紳助の机に入っているネタ帳を取ってこい」といわれたこともあったそうだ。
巨人による結論は「紳助は半分天才、半分は努力の人。天才に努力されたら勝てんわな」だった。
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