「毒舌」とは何か ウエストランド・井口が賞レース「審査員」の英断 SNSの罵詈雑言とは違う“本物の芸”とは
NHK新人お笑い大賞
お笑いコンビ・ウエストランドの井口浩之が、「NHK新人お笑い大賞」で初めて審査員を務めることが発表された。「NHK新人お笑い大賞」は、結成10年未満の芸人を対象にしたお笑いコンテストである。予選を勝ち抜いた8組の芸人が本選に進み、そこで優勝者が決まることになる。【ラリー遠田/お笑い評論家】
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井口が審査員を務めるというのは意外な感じがするかもしれない。彼は「M-1グランプリ2022」のチャンピオンであり、芸人としての実績は十分ある。しかし、バラエティ番組では手当たり次第にあらゆるものに噛みつく毒舌のイメージが強く、他人のネタを審査するような仕事に向いていないと感じる人もいるだろう。
しかし、井口の能力やキャラクターを冷静に考えるなら、彼ほど審査員に向いている芸人はいない。彼を審査員に起用したのは英断である。
井口は毒舌を売りにしていることで知られている。そこで考えなければいけないのは、そもそも「毒舌」とは何か、ということだ。たとえば、ウエストランドが「M-1」で披露した漫才の中で、井口は「R-1には夢がない」という趣旨のことを言って、大きな笑いを起こしていた。
彼の言う「R-1」とは、ピン芸日本一を決める「R-1グランプリ」のことである。たしかに、世間の注目度も高く、売れっ子を多数輩出している「M-1」に比べると、「R-1」はやや地味な印象がある。決勝に進んだり、優勝を果たしたりしても、その後にあまりテレビの仕事が増えていない芸人も大勢いる。「R-1」が「M-1」に比べると勝ったときの実りが少なく、夢がない大会だと言われるのもやむを得ない。
井口は、漫才の中でもテレビに出るときにも、この手のことをよく言っている。こういうのが「毒舌」の典型的なイメージだろう。ただ、ここで注意したいのは、なぜこの発言で人々が笑うのか、ということだ。それが笑える最大の理由は、人々がそこに共感したからだ。「たしかに」と深く納得したからこそ、その発言が刺さって、思わず笑ってしまった。
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