「毒舌」とは何か ウエストランド・井口が賞レース「審査員」の英断 SNSの罵詈雑言とは違う“本物の芸”とは

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客観的で冷静な目線

 つまり、笑える毒舌には「みんなもそう思っている」という側面がある。どんなに過激に聞こえることであっても、的外れなことであれば人は笑わない。多くの人が潜在的には思っているが口に出せなかったことを発言することで、それが納得とともに面白く感じられ、笑いが起こるのだ。

 この意味で、毒舌を芸にする者は、誰よりも客観的で冷静な目線を持ち、世間一般の人が考えることをわかっていなければいけない。常識と良識を備えているからこそ、毒舌で笑いを取ることができる。井口という芸人の最大の強みはこの点にある。

 彼は放送作家の飯塚大悟氏とともに、1か月のお笑いニュースを振り返る「今月のお笑い」という対談連載を行っている。そこではお笑いや芸人のことについて鋭く分析して、持論を語っている。それも含めて、彼のテレビやライブでの発言を振り返ってみると、口調は乱暴でも、話している内容はまっとうで、核心を突いていることが多い。特に、お笑いに関する話には深みがあり、誰もが納得できるようなことを言っている。

 井口のような毒舌芸人は、世間ではあまり良いイメージがないかもしれない。「悪口を言うだけなら誰でもできる」などと考えている人もいるようだ。しかし、悪口で笑いが起こるのであれば、それは立派な芸である。

 今の時代、SNSなどを眺めてみれば、当たり前のように人々が口汚く罵り合っているのを目にする。そういった罵詈雑言はもちろん笑いにはつながらず、見る人を寒々しい気持ちにさせるだけだ。芸になっていない悪口がそこら中にあふれている今だからこそ、芸としての毒舌には特別な価値がある。

 井口にはお笑いを見る目があり、それを的確に言語化する能力もある。10月26日に生放送される「NHK新人お笑い大賞」では、そんな彼の審査員としての勇姿が見られるだろう。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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