権威を持ち出して“それっぽく”書けばウソも真実に? 「もっともらしさ」は恐ろしい(中川淳一郎)
新聞やテレビはしきりとこういう論陣を張ります。
〈ネットは誤情報だらけ。やはり信頼できるのは昔ながらの活字・電波メディアだ。きちんとした取材とファクトチェックの裏付けがあって情報を出しているから信頼性が違う〉
速報「おこめ券」が不評の鈴木農水相 父親に“あやしい過去”が… 後援会幹部は「あいつは昔、週刊誌沙汰になったことがある」
この後、ネットは陰謀論と誹謗中傷だらけだというお決まりの展開に入ります。
しかし、読売新聞なんて大誤報2連発をやらかしたばかり。「7月中に石破茂首相が退陣する」「日本維新の会の池下卓衆院議員に秘書給与不正受給の疑いがある」――。石破首相の退陣表明は9月に入ってのことで、池下氏は無実。実際は石井章参院議員でした。こうなる時はなるのです。
思い込みというものはあるわけで、私も雑誌「TVブロス」で「カエル特集」を手がけた時に凡ミスを。
カエルが登場するCMを集めたコーナーを作った中で「ど根性ガエル」のキャラが出てくる大鵬薬品「ソルマック」のCMを紹介。広告代理店から写真をもらい受けました。
CMの内容は“正確に”書いたものの、なぜか頭の中で勘違いしており、見出しにナ、ナンと「チオビタ・ドリンク」とつけてしまった。恐ろしいことに当時の編集部は勝手に企画を作らせてくれて、編集長が確認するのは印刷直前の段階。細かいところまでは見ません。
発売後、ご丁寧にも「ソルマック」という文字入りの写真だったことを思い出し、大慌てで広告代理店に電話して謝罪しました。
思い込みは恐ろしい。ソルマックはお酒を飲む前や後に飲む飲兵衛向け飲料で、チオビタ・ドリンクは「愛情一本」がキャッチコピーの栄養飲料。頑張る人を応援したいという思いを込めた飲み物です。コンセプトが全く違う商品なのになぜか間違えた。唯一の救いは、チオビタ・ドリンクも大鵬薬品の商品だったことでした。
さて、現在40代半ばから60代の方なら「民明書房」の名を聞いたことがあるのではないでしょうか。漫画『魁!!男塾』シリーズに登場する架空の出版社です。基本的に格闘漫画でありまして、さまざまな「技」について、その解説を民明書房など出版社の書籍を引用する体裁で紹介するのです。
たとえば月光というキャラが放った「纒がい狙振弾(てんがいそしんだん)」という技。地面に置いた鉄球をゴルフクラブのようなもので打って相手を攻撃するのですが、民明書房『スポーツ起源異聞』ではこんな解説がなされています。
〈この技の創始者・宗家二代、呉竜府(注・“ゴリュウフ”と読む)は、正確無比な打球で敵をことごとく倒したという〉
そして、ゴルフの起源は英国とされているが、実は中国だったと締めくくる!
他にも、甲冑(かっちゅう)を後ろ前に着用し、相手に対してこちらが背を向けているように見せかけた男「李筴振(注・“リバシブル”と読む)」が英語「リバーシブル」の語源だと解説したり。荒唐無稽にもほどがあります。
けれど当時、本当に民明書房の書籍が存在すると思った少年も案外いて、書店に行って「『スポーツ起源異聞』下さい!」などとやっていたのです。
この話、デマや誤報と関係ないものの、「権威を持ち出しそれっぽく書けばうそも真実になる」と民明書房は教えてくれたのでした。


