オーダーまちがえても“クレーム皆無”認知症のおばあちゃんがホールに立つ「注文をまちがえる料理店」イベントレポート
「注文をまちがえる料理店」をご存知だろうか。もちろん、宮沢賢治の名作ではない。介護福祉士で東京都初の認知症高齢者グループホーム「こもれび」施設長である和田行男氏が始めた「認知症の状態にある方がホールスタッフを務めるイベント型レストラン」だ。
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2017年にプレオープンイベントを開催してから、回を重ねるたびに話題となり、自治体や企業と協力して様々な場所で「料理店」を開いてきた。今年もクラウドファンディングで募った支援者448人によって総額1371万3000円の支援金を集め、9月20~21日(「認知症の日」)、東京・原宿の「ハラカド」内にあるレストラン「FAMiRES」の場所を借りてオープン。また全国の有志と共に北海道から沖縄までの全国34か所でイベントを同時開催した。そこに足を運んだのは、女優の北原佐和子だ。
北原は、2007年頃から介護士として介護業務に携わり、2016年にケアマネージャー、2020年には准看護師の資格を取得。現在は女優業のかたわら、都内でケアマネ業務に携わっている。リアルな“認知症の現場を知る人”だ。
「ま、いっか」の精神で
21日は3回入れ替え制。北原が訪れたのは午前11時30分オープンの初回だった。開会のあいさつが終わると、認知症の状態にある“おじいちゃん”や“おばあちゃん”のホールスタッフが、胸に名札を付けたエプロン姿で担当テーブルの注文を聞きに回る。厨房にオーダーのメモを渡して、前菜とサラダ、オムライスやナポリタン、ハンバーグにデザートを運ぶ。一緒に席について、おしゃべりでお客様をおもてなしする……。
「注文をまちがえる料理店」はその名のとおり、ホールスタッフが持っていく料理を間違えたり、自由きままに客席に座って休憩をとってしまったり、自分の担当テーブルを忘れてしまったりするレストラン。このスタッフたちの「うっかり」を味わい、「ま、いっか」と楽しむことが、このイベントの醍醐味だ。席数は48席。この客席に座るには、このイベントのクラウドファンディングで1名1万円か2万円、ペアで3万円か4万円の4つのコースから申し込む。
北原のテーブルを担当してくれたのは「さかまきさん」という86歳のおばあちゃんだ。北原を含め着席は3人と、ほかのテーブルより人数は少ないものの、もともと接客経験のないさかまきさんにホールスタッフの仕事は難しい。運んだハンバーグには旗を立てなければならないし、オムライスにはケチャップで絵を描かないといけない。ナポリタンには粉チーズをかけなければいけないから忙しい。それでも“写真を撮っていい?”と聞くと、満面の笑みでピースサインを送ってくれた。
各回総勢11人のホールスタッフには、それぞれ1人ずつ、サポートの学生ボランティアが付き、声がけをしながら温かく見守っている。間違えても当然、誰も文句を言わない。スタッフ一同がニコニコと、心から業務を楽しんでいることが伝わってくる。
「認知症だからといって“危ないから”と何もさせないのは逆効果。例えば、料理で包丁を使うのはリスクがあるから……と、台所から遠ざけてしまったら本人のためになりません。それは彼らの“仕事”や“やりがい”、“居場所”を奪うこと。
誰だって人から褒められれば嬉しいじゃないですか。人間、いくつになっても自分がやったことに対して“ご苦労様”“ありがとう”と言われれば嬉しいもの。この“喜び”という感覚を習慣化していくことが大切なんです」
と、北原。喜びという感覚の蓄積。人と人の関わりの中でそれを補い合えることが大切だと彼女は語る。
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