オーダーまちがえても“クレーム皆無”認知症のおばあちゃんがホールに立つ「注文をまちがえる料理店」イベントレポート
イベントを終えて
認知症介護の講習会などでかねて親交を深めていた主催の和田氏に、北原が話を聞いた。
――イベントは大成功ですね。ご感想は?(以下、北原)
「よかった。ガラガラだったらどうにもなりません。イベントの朝は、“働いてくれる人がちゃんと来てくれるのかな”というのはちょっと心配になりますが、それ以外は不安も期待もないんですよ。大きくは信じているけど、小さくは信じていないので(笑)」(以下、和田氏)
――「注文をまちがえる料理店」がスタートして8年になります。
「38年前に介護の仕事に就いてから、『注文をまちがえる料理店』が誕生するまでに30年かかっているんです。2017年のスタート時には1か所、今年は全国で34か所が、同時に開催しています。そういう長い流れで見ているから、一喜一憂はないですね」
――「注文をまちがえる料理店」と言う構想は、介護の仕事を始めた時からあったのでしょうか。
「認知症という状態にある人たちが、自分でできることまで奪われ、“それが高齢者を大事にすること”“それが介護だ”と言われていたことに異を唱え、“自分のことが自分でできるように支援”してきましたが、それを同業者から“認知症の人にあれこれさせるなんて、和田のやっていることは虐待だ”とバッシングされました。なのに、僕のことをずっと追いかけてきてくれたのがメディアの皆さん。その延長線上にNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』の取材があり、僕の“本人が力を発揮できる環境づくり、介護事業所で暮らす人たちが労働者として復権できる場づくりが必要”という考え方と、当初、取材者であった小国さん(プロジェクト発起人)が取材中の出来事で思いついた『注文をまちがえる料理店』の発案が結びついて動き出したプロジェクトなんです」
――このイベントでは「不謹慎」「見世物にしている」といった批判があったようですが。
「さきほど言ったように、かつては自分でできるように支援すること、社会生活を営めるように支援する僕のことを『虐待のカリスマ』とささやいていた世間様が、今じゃ『自立支援のカリスマ』ですからね。僕は何にも変わっていないのに。」
――私も今日、テーブルでサービスを受けましたが、担当してくれたおばあちゃんの笑顔が本当に素敵で。取材した私たちのほうが力をもらえました。お給金をもらっている時の、嬉しそうに給料袋を眺めていた表情は忘れられません。こんな幸せな時間がみんなにもっといっぱいあったら……と思いました。
「人間は、相手を見て表情を作るじゃないですか。顔は“写鏡”。自分がニコニコしていれば、自然と周りもニコニコになる。スタッフが楽しかったら利用者も楽しいんです。お客さん、当事者、サポートする側すべてが“笑顔でいていい状況”を作り出せているんだと思いますよ」
――いい笑顔を見たり、言葉を聞いたりすると、私たち介護スタッフはすごく幸せな気持ちになれます。そういう場所がたくさんあったら、仕事も楽しくなりそうですね。
「認知症ケアの話だけじゃなく“人間はどうして笑顔を作ったのか”……、それを考えることがすごく大事。極端にいえば、“この人は敵か味方か”を判断する大きな要因なんです。僕は脳が病気になったら、そこがすごく敏感になると思う。だから、笑顔でさえいられれば、みんな味方になれるんですよ」
――今日は皆さんがいい笑顔でした。
「それぞれの施設に帰る車の中で、おじいちゃん、おばあちゃんが“何をしたか覚えてないけど、あー楽しかった!”って言ってくれたらいい。どんな仕事をしたかなんて、覚えてなくてもいいんです。ただなんとなく楽しかったイメージが残れば」
それも含めて「ま、いっか」!
些細なことで人を傷つけるようなニュースが溢れる現在。「注文をまちがえる料理店」の中でみんなが見せる笑顔は、認知症の当事者に限らず、“今の社会全体”に必要なものなのかもしれない。
























