オーダーまちがえても“クレーム皆無”認知症のおばあちゃんがホールに立つ「注文をまちがえる料理店」イベントレポート

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参加客、ボランティアは……

 今回のイベント開催のため、クラウドファンディングに賛同し、この日、客として参加した60代の2人組、安東さんと坪沼さんは、ともに介護関係の仕事に従事している。

「社会的に困難な状況に置かれている方であっても、誰もが“自分の居場所”、“自分が活躍できる場所”を求めています。それを目に見える形で実現してくれているのが『注文をまちがえる料理店』なのだろうと期待してやって来ました」

 と、安東さん。クラウドファンディングでは、ペアで4万円の返礼品の席を選んだ。オリジナルグッズやイベントの参加権が付いたとしても、決して安くない。だが、安東さんには障害がある家族がいたこと、坪沼さんは亡くなった家族が認知症の当事者であったことが、それぞれ“来店”のきっかけになった。

「人生の大先輩達が、いきいきとしていて羨ましい。自分もこんなふうに朗らかに生きたいと思いました」(安東さん)

「認知症ということで、どうしても普通の社会と断絶してしまうことが多い。こうやってみんなで会える機会がもっと増えればいいなと思います」(坪沼さん)

 また、“料理店側”の学生ボランティアとして参加し、おばあちゃんスタッフの付き添いをした大学生、中塚滉大さん(20)は……。

「初めは付き添うのがちょっと不安でした。でも、認知症のおばあちゃんと話していたら、“私も不安なの”とコッソリ明かしてくれて。認知症の人に対して少し怖いイメージがあったのですが、そんなことなかった。イベントではおばあちゃんが楽しんでくれたから、今日は僕も楽しく付き添いできました」

 中塚さんの実の祖母は70歳で、認知症とは無縁。“知らないから怖かっただけ。知ることで怖くなくなった”と語ってくれた。こうした理解につながるふれあいもまた、このイベントの大きな意義なのだろう。

 ホールスタッフみんなの自己紹介タイムが終わり、それぞれに“お給金”の袋が渡される。

 イベントがフィナーレを迎えるころには、おじいちゃんスタッフもおばあちゃんスタッフも、客も、北原を含む取材班も、そして運営側までも、全員が笑顔に包まれていた。

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