「ヘイトをあおる」 川口市議会の意見書への批判を当の市議会議員はどう受け止めたか

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 外国人住民が多く、最近は「クルド人問題」で注目されることが増えた埼玉県川口市の市議会が、国に向けて「不法滞在者ゼロプランの着実な実行等を求める意見書」を提出した。この意見書に対しての評価は大きく二分される。当然だという声と、「差別につながる」という声である。

 現地に長期滞在して取材をしてきたライター、石神賢介氏はどう見たか。川口市議へのインタビューと共にレポートする。

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少しずつ強制送還が実現している

 2024年から2025年にかけて、筆者は埼玉県川口市で暮らす在留資格を持たないクルド人に関する取材を進めてきた。なるべく住民に近い目線で実態を知りたい。そう考えて西川口のウィークリーマンションに滞在することにした。

 市内や近郊で暮らすクルド人と接触し、市長や市議会議員をインタビュー。できるだけニュートラルなスタンスを取るよう心がけて取材を行ってきた。その上で書いたのが拙著『おどろきの「クルド人問題」』である。

 外国人の移民問題は参議院選でも争点になり、先の総裁選では各候補が課題の一つに挙げ、早期に解決しなくてはならない問題として全国的に認識されるようになってきた。

 法務省の入管庁(出入国在留管理庁)は、2025年5月に「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を明確にしている。「入国管理」「在留管理・難民審査」「出国・送還」の3段階で、不法滞在者を減らしていこうというプランだ。法務省は2024年に年間249人だった送還数を3年後の2027年には倍の500人を目指すという目標も明確にした。このプランに先立ち2024年度には、強制送還の護送費用として8300万円を補正予算に計上している。

 はたして不法滞在者ゼロプランは実行されているのか。

 10月初旬に川口を訪れた。京浜東北線に乗り街を歩くと、いつものようにあちこちから英語以外の外国語が聞こえてくる。川口市は全人口の約8・46%(5万1489人)が外国人とされている(8月1日川口市調査)。

「暮らしていると、外国人が減ったという実感は確かにありません。それでも、ずっと目立っていたクルド人が強制送還されたというニュースは耳にするようになりました。7月には、難民申請と仮放免をくり返して20年以上市内で解体業を営んでいたクルド人が強制送還されています」

 実情を話してくれたのは、『おどろきの「クルド人問題」』の取材でもお世話になった川口市議会議員の奥富精一さん。奥富市議の地盤はクルド人が多く暮らしている地域だ。
 
「市民の立場から言わせていただくと、入管のプラン通り不法滞在者をゼロにしてほしい。しかし現実的には、複数の護送官の手で飛行機に乗せたり、複数の座席を確保したり、コストがかかります。だから、少人数ずつ還しているという状況。ベストではなくベターですが、ある程度しかたがないことだと理解しています」(奥富市議・以下同)
 
 クルド人によるトラブルはつい最近も伝えられている。
 
 産経新聞(9月30日)によると、9月24日、トルコ国籍(クルド人の場合も「トルコ国籍」と表記される)の38歳無職の女が無免許で、自転車を運転する女性を轢いてけがをさせて逃げた。「相手の自転車がぶつかってきた。たいしたことはなかったから立ち去った」と容疑を一部否認しているという。
 
 奥富氏は語る。
 
「無免許で運転、轢いて逃げたこと……、酌量の余地はありません。在留資格を持たないクルド人の場合、住民登録もなく、多くは運転免許もありません。でも、運転してしまう。しかも、事故を起こしても保険に入っていないケースがほとんどなので、被害者は泣き寝入りになります。外国人の運転に関しては、暴走やあおり運転もいまだに減っていません」

不法滞在者ゼロプランへの意見書

 こういう事故や事件が絶えないことを危惧する川口市議会は、9月30日、国に対して「不法滞在者ゼロプランの着実な実行等を求める意見書」も提出している。
 
 主な内容は以下の通り。

1 不法滞在者ゼロプランの着実な実行。数値目標通りに行うこと。

2 仮放免者の在留管理体制の構築。収容施設を建設するなど。

3 医療費未払い問題への対応。増加している仮放免者の未払い金を国費で全額負担。

4 地域と連携した対策の整備。入管庁、警察、自治体などが情報を共有し治安維持を図る。

5 人権に配慮した適正な運用。国際人権法に基づき、外国人全体への差別や偏見を助長しない。

 川口市議会のこの意見書は賛成多数で採択された。

東京新聞は「ヘイトをあおる」と批判

 筆者は意見書の内容はどれももっともな要望だと思う。しかし、違う見方もあるようだ。

 10月1日付の東京新聞は1面に「外国人排斥あおる恐れ」「非正規滞在の背景顧みず」という見出しで、意見書に批判的な記事を掲載した。
 
 記事では、「入管行政や人権問題の専門家」のコメントとして「外国人へのヘイトをさらにあおることになる」と指摘している。
 
 これに対して奥富氏は語る。

「私は意見書がヘイトをあおっているとはもちろん思いません。従って東京新聞の記事の主旨にも賛同していません。でも、言論の自由は理解しています。今回の議会の意見書について、東京新聞をはじめとするメディアがネガティヴな記述をしたとしても、結果としてこの問題がより関心を集めるのであれば、ありがたいとも思うようにしています。記事によって、在留資格をもたない外国人による川口市のトラブルや事件が広く伝わるからです。
 
 外国人との共生が大切であることは、もちろん理解しています。でも、今は現実に起きているさまざまな問題を解決することが大切だということも理解していただきたいと考えます。市内には、在留資格のない外国人の行いによって困っている人がたくさんいるのです」

 東京新聞の記事でよくわからないのは、意見書は国に向けてのものなのに、「ヘイトをあおる」と心配している点だ。この意見書を読んで、あらたに差別心を燃やす市民や国民がいるということなのだろうか? どういう人を想定しているのだろうか?

 上に紹介した意見書で述べていることはかなり常識的であるうえ、わざわざ「5」として、「外国人全体への差別や偏見を助長しない」とまで書いている。これは「ヘイトをあおる」といった懸念への配慮だと言えるだろう。

 また、この記事内には「日本の難民認定基準は国際的にみて極めて厳しく」ともあるが、日本での難民認定は世界基準。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の基準に則っている。

「人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ、国際的保護を必要とする人々」(UNHCRホームページより)

 この定義に該当しない外国人は難民認定されない。そして、川口市のクルド人の多くは該当しないという見方は根強くある。

 コルクット・ギュンゲン前駐日トルコ大使は以前、メディアの取材に対してクルド人の訪日が難民ではなく、出稼ぎであることを認めている。

「経済的な理由が多いことは、われわれも認識を共有している」

「違法な形で日本に滞在し、難民認定制度を悪用して滞在を引き延ばしている。これこそが問題だ。トルコ共和国としてこの現実は決して後押しできるものではない」(以上・2024年11月30日付産経新聞)

 入管法の改正で、現在は難民申請不認定2度以上の外国人は強制送還の対象になった。奥富氏は少しずつでも事態が良いほうに進むことを期待する、と語る。

「市内で聞くところによると、入管庁は難民申請不認定で仮放免の手続きに来た外国人を順次送還しています。コツコツとやってくれているようです。

 川口市民の代表としては、外国人問題が解決に向けて加速することを期待しています。今、クルド人は東海地方に移り始めているとも聞いています。つまり川口だけではなく、日本全体の問題になりつつあるのです。外国人問題は今こんなに深刻なのに、民放のテレビ局は避けるように報道しませんよね。こういう状況も改善されていくのではないでしょうか」

「不法滞在者ゼロプラン」や川口市の意見書のマイナス面に気をつけろ、というのは一つの考え方だろう。しかし、だからといって実際の市民らが抱えている不安や不満にフタをするだけでは何も変わらないのではないだろうか。

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